穀物サイロから生まれたトウモロコシ空間
南アフリカの建築を紹介するチャンスは滅多にないが、ケープタウンに完成した「ツアイツ・アフリカ現代美術館」はリノベだが、そのデザイン手法は驚異的な結果を示している。建物はアフリカに存在するアフリカ美術と、世界中に離散したアフリカ美術の収集では、世界最大の美術館である。
敷地はケープタウンのウォーターフロントに立つ歴史的な穀物サイロ・コンプレックスで、1921年に建設され、同市の工業的過去をシンボライズしたモニュメントであった。高さ57mの建物は南アフリカにおける最も高い建築であったが、1990年より使用済みとなり、現在はヘザーウィックのデザインにより新しい生命を吹き込まれて復活した。
42個の円筒形の高いサイロがびっしりとかたまって立ち上がる形態は、ケープタウン・スカイラインにおけるイコン的存在であった。延床面積9,500m2のミュージアム空間のうち、ギャラリー群とアトリウム・スペースは、これらの林立するサイロ群をえぐり取って形成された。特にミュージアムのメイン空間となるアトリウムは、巧妙にえぐり取られたサイロのユニークな形状が、不思議な魅力を放つ空間となっている。
この開発では、80個のギャラリーによる6,000m2の展示スペース、屋上彫刻ガーデン、最先端的収蔵&保存エリア、ブック・ショップ、レストラン、バー、読書室が生まれた。さらにミュージアムにはコスチューム研究所をはじめ、写真、キュレーション、映像、パフォーマンス・アート、美術教育の各センターがある充実ぶりなのだ。
内部で最大のスペースとなるアトリウムは、一粒のトウモロコシの形状を拡大した形を想定してえぐり取られた。高さ27mの大空間をつくるには、個々のチューブを削り取る必要があった。古くてもろい厚さ17cmのコンクリート壁を壊さないよう、チューブの壁面に沿って補強用のコンクリートを流し込みながら削るという難工事であった。
3,000万ポンドをかけた「ツアイツ・アフリカ現代美術館」のリノベ・プロジェクトは、V&A ウォーターフロントとヨッヘン・ツアイツ氏の協働による非営利団体として完成したものである。日々活動する歴史的な埠頭に配置されたV&Aウォーターフロントは、著名なテーブル・マウンテンを背景に、海へのワイドな景色、街への眺め、山の峰々への眺望に恵まれており、毎日多数の人々が押し寄せている。