ヴェトナムのホイアンは有名な観光都市で、ユネスコの世界遺産に登録されて以来、急速な発展をしてきた。「ホイアン・アトラス・ホテル」は、その旧市街にある。近年ほとんどの古い家は、日々流入する観光客など用のショップやレストランに改修されてしまった。
旧市街は美しいタイル張りのルーフスケープをもつ家々と、内外部空間の間にある層状的空間クオリティをもつ内部的な中庭で有名であった。こうした街の美しさは、徐々にカオティックな商業主義的な流れに溶け込んで行ってしまった。その結果、旧市街は静かで安穏とした生活スタイルの魅力を失ってしまった。
不整形な敷地にあるため、「ホイアン・アトラス・ホテル」はこうした制約をユニークなプランニング・デザインへと変えている。リニアなレイアウトはいくつかの内部コートヤードに分割され、敷地の上に建物を浮かせることにより1階を全面的に解放し、相互につながる中庭の内部的なネットワークを創造している。こうした空間的特性は、新しいホイアンのダイナミズムを反映しているのみならず、旧市街の魅力をも保持している。
ホテルは5階建てで、客室48室をはじめ、レストラン、カフェ、ルーフトップ・バー、スパ、ジム、スイミング・プールなどのレジャー施設も充実している。敷地の複雑な形態から、個々の客室は標準的なホテルの客室より奥行が浅く間口が広くなっている。その客室形態は問題であるというよりむしろ、寝室からのみならずバスルームからも緑に近いという特徴がある。
建物外壁はコンクリート・スラブに地方産のサンド・ストーンを巡らせた外壁で、通路沿いに一連のグリーンのプランターを装備している。これらのプランターは全周のファサードに取り付けられているため、日除けになると同時に室内に涼しい空気を取り込んでいる。
さらに穴を開けた石積みの外壁のために、空気の流れを止めることなく昼光を導入することができる。したがって自然換気となり、エアコンの使用を最小限にすることも可能だ。グリーンと自然要素の多用は、ヴォ・チョン・ギア事務所の得意とするデザインであり、その作品のひとつである「樹木のための家」のコンセプトにも通底する。
建築デザインに緑をインテグレイトさせることは、ヴェトナムの都市エリアを若返らせることであり、社会環境に寄与することであるというギア事務所のデザイン・ポリシーなのだ。その意味では、「ホイアン・アトラス・ホテル」は人間と自然を再結合している。