ポーランド最古の都市のひとつポズナンは、中世ポーランド王国における最初の首都という長い歴史をもっている。MVRDVのデザイン・プロポーザルはこの歴史的敷地に対応したものである。かつて敷地には「バルティック・シネマ」が建っていたところで、その名前を取ってMVRDVのオフィス・プロジェクトは「バルティック」と呼ばれることになった。
延床面積25,000m²の建物は、オフィスに12,000m²、ワン・ルーム付きのパノラマ・レストランに750m²、台座にある店舗に1,350m²、他は地下3階の駐車場になっている。フレキシブルなオフィス・スペースは、奥行きが7mと浅く制限され、昼光がふんだんにワーク・スペースを照らすよう仕組まれている。ファサードはフルハイトのガラス張りで、グラスファイバー・コンクリートの垂直ルーバーを装備し、ヴィスタを遮ることなく太陽光を和らげている。
ポズナン中央駅と、空港へのハイウェイ近くにある交差点ロンド・カポニエラに位置する「バルティック」は、同市にとっては新しいランドマーク・オフィスで、コンテンポラリーな複合ビルである。「バルティック」は低層階と上層階をスムースにコネクトしたいというクライアントの要望を反映させ、かつ建物を近隣界隈に繋げ、さらに大胆な表情をもち、ヴォリュームに深みのあるデザインとしている。
ダイヤゴナルなフォルムが南面でユーザー用の段状テラスへと変換され、これが上昇するにつれて細くなってオフィスの面積が減少し、かわりに低層部のパブリック・スペースが広くなっている。建物はホテルをはじめ、改修されたコンコルディア・ビル、新しいクリエイティブ・ビジネス・センター、国際展示場ビル等が近隣界隈にあるので、その利点を享受している。MVRDVは特に「バルティック」の建築面積をコントロールすることによって、建物西側外壁とコンコルディア・ビルとの間に植樹を施したアーバン・プラザを巧みに生み出している。建物のマッスは敷地の最大容積率や高度制限をいっぱいに使用している。
建物の最大の特徴は、東西南北どの方向から見ても全て異なる建物形態を見せていることだ。つまり建物外観が非常に複雑なため、アクセスする方向によっては千変万化のファサード表情を見せている。平面形は南北に長く、東西には薄くなっている。先述のように南面は段状にセットバックしていくテラスだが、北側ファサードはシャープに尖っており、北西側頂部には南面のセットバック・テラスよりは小さいが、パノラマ・テラスができている複雑さ。
エントランスは西側・東側両ファサードの中央にあたりの向かい合った位置にある。西側エントランス上部の2階レベルは3角形状に凹んでおり、そこにテラスが設けられている。ここからは目の前に広がるささやかだが、MVRDVが捻出したアーバン・プラザを目の当たりにすることができる。なお「バルティック」はMVRDVの初めてのポーランド作品で、今後の東欧への試金石となる重要な作品である。