スウェーデンの首都ストックホルムは比較的に高層ビルが少ない。そうしたストックホルムとソルナ地区の境界にある新興住宅地に、ふたつの高層集合住宅タワーからなる「ノラ・トルネン・タワーズ」が計画された。そのうち高さ125mの「イノヴェーション・タワー」が、2018年にOMAのパートナー、レニエ・デ・グラーフのデザインで完成した。他の「ヘリックス・タワー」は高さ110m33階建てで、2019年末の竣工が予定されている。
「ノラ・トルネン・タワーズ」は、ストックホルムの市街地では最も高い集合住宅タワーで、同市へのゲイトウェイを構成する建物である。「イノヴェーション・タワー」には182戸があり、44m2のワン・ベッドルーム・タイプから271m2の最上階ペントハウスまで多種のタイプがある。アメニティー施設として、シネマ室、パーティ&祝祭用ディナー・ルーム、ゲスト用アパート、サウナ付きジム、リラクゼーション・エリアなどがある。また「ヘリックス・タワー」は138戸があり、同じようなアメニティー施設が予定されている。
建物のデザインは、プレキャストのRCエレメントをモジュラー・システム化した表現。外観は各住戸の出窓と奥まったテラスが交互に繰り返される構成で、全体ファサードをまとめている。外壁はリブ付きのカラー・コンクリートで、無数の小石が表面に浮き出た仕上げ。これは建築評論家のレイナー・バンハムがいう、スウェーデンで生まれたブルータリズムの賜物で、ブルータリズムは、有名なスウェーデンの建築家グンナー・アスプルンドの息子ハンス・アスプルンドが、はじめて用いた建築用語であるという。
ストックホルム中心部の建築は、そのほとんどが第2次世界大戦以前に建てられた古い建築である。出窓の大きなガラス面とテラスの存在は、年の半分は昼間の太陽光が乏しい国にあっては貴重な資産だ。OMAは北国の住人にアウトドア・スペースを楽しむ新しいアーバン・ライフを提案。ユーロ諸国の都市において、ここは4番目に空気のきれいな都市で、戸外アクティビティをエンジョイする傾向はさらに強まることをOMAは察知していたようだ。なんと建物の起工式が始まる前に、全戸が売却されてしまったというのも頷ける。
従来のOMAによる集合住宅デザインは、例えば「インターレイス集合住宅」のようにモニュメンタルな印象のものが多い。ここではプレファブという限定されたエレメント数で、可能な限りの住戸タイプ数を創造することが目論まれた。北国における次世代の新しいハウジング・タイポロジーに焦点を当てたOMAの努力がひとつの頂点を迎えた。「それは通常のフォルマリズム的な集合住宅タワー・デザインから、個性的・家庭生活的な方向、むしろヒューマニズム的な方向へとシフトした」と、担当したレニエ・デ・グラーフは述懷している。