建築物省エネ法が改正され、2025 年 4 月からはすべての新築住宅に対して省エネ基準
への適合が義務化される予定です。この記事では、以下の内容をわかりやすく解説し
ます。
• 省エネ住宅の基準や種類
• 省エネ基準適合義務化で押さえておきたいポイント
• 住宅ローン減税への影響
住宅の新築を考えている方やマイホームの資産価値を守りたい方は参考にお読みくだ
さい。
省エネ基準とは?
省エネ基準とは、建物の消費エネルギーの減少を目的とした法律に基づいて定められています。建物の省エネ性能を適正に機能させるためには、どのような構造や設備が必要かを定めているのです。省エネ基準には主に以下の 2 つが大きく関係しています。
外皮性能
外皮性能とは、建物の壁や天井、窓がどれくらい熱や日光を通すかを示すものです。
外皮性能を調べるには、UA 値(ユーエーチ)とηAC 値(イータエーシーチ)という 2つの数字が使われます。
UA 値は断熱性能を表し、値が小さいほど熱伝導が低くなるというのが特徴です。ηAC値は日射遮蔽性能を表し、数値が小さいほど太陽の光を遮断できます。
住宅の外皮性能は UA 値とηAC 値で決まり、どちらも地域ごとに基準がことなる点に注意が必要です。省エネ住宅の基準値は下記の数字よりも下回らなければなりません。
地域区分 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
UA 値 |
0.46 |
0.46 |
0.56 |
0.75 |
0.87 |
0.87 |
0.87 |
ー |
ηAC 値 |
ー |
ー |
ー |
ー |
3.0 |
2.8 |
2.7 |
6.7 |
(出典:国土交通省
「【参考】住宅における外皮性能」)
地域区分は、大まかに北から南に向けて数字が大きくなり、東京 23 区は区分 6 に該当します。詳しくは国土交通省の
「地域区分新旧表」をご覧ください。
一次エネルギー消費量
一次エネルギー消費量とは、住宅で消費するエネルギーの総量です。基準値と比べて、どれだけ削減できるかで省エネ性能を表します。評価されるのは、以下の 5 つの設備です。
特定の計算によって基準値以下なら、省エネ基準の住宅として認められます。
省エネ住宅の種類
省エネ住宅には、さまざまなタイプがあります。すべてに共通しているのは、「エネルギー消費量を抑え、CO2 の排出も削減すること」を目的としているという点です。条件や重要視するポイントによって、どの住宅を選ぶかは変わってきます。
ZEH住宅
LCCM 住宅
LCCM とは、「ライフ・サイクル・カーボン・マイナス」の略語です。家を建てる際から、解体するまでに発生する CO₂の排出量を削減する住宅となります。LCCM 住宅も年間のエネルギー消費量をほぼゼロにしますが、条件が ZEH 住宅よりも厳格です。太陽光発電パネルや断熱性も、より高い基準が設けられています。
長期優良住宅
国が始めた認定制度で、従来の「古くなった住宅は壊して建替える」という考えから、あらかじめ長く住み続けられる家を建築することを目指した制度になります。古い家を解体する際に出るゴミを減らせ、地球環境にも寄与する住宅です。長期優良住宅として認定されるには、断熱性能やエネルギーの使い方に関する条件を満たしている必要があります。
認定低炭素住宅
地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出を減らすための仕組みや設備を導入した住宅で、「都市の低炭素化の促進に関する法律」(エコまち法)によって定められた「低炭素建築物認定制度」の認定が必要です。長期優良住宅が長期にわたって良好な状態を保つ住宅であるのに対し、認定低炭素住宅は省エネに特化しています。
2025 年 4 月から省エネ基準適合が義務化
2025 年 4 月から、すべての新築住宅や非住宅は、省エネ基準への適合が義務化されます。2022 年 6 月に公布された「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律の一部を改正する法律」(令和 4 年法律第 69 号)によるものです。建築基準法が改正され、建築確認や検査の対象が見直され、住宅建築に関する審査の省略内容が減少します。
建築確認の手続きの中で、今まで省略されていた省エネ基準に適合しているかどうかの審査が行われることが大きなポイントです。基準に適合しない場合や、必要な手続きや書類の整備が怠られた場合は、確認済証や検査済証が発行されません。工事の開始や入居日が遅れる可能性もあり、注意が必要です。なお、新たに義務付けられる建物には、現行の省エネ基準が適用されます。
これらの法改正は、行政機関を通して設計者や工務店へ既に通達されています。住宅購入の際は、法律改正を理解し、十分な準備を行っているハウスメーカーや業者を選びましょう。
(参考:国土交通省
「省エネ基準適合義務化」)
2024 年以降は住宅ローン減税と物件表示制度も変更
2025 年 4 月の省エネ基準適合義務化を前に、2024 年からは住宅ローン減税や物件の表示方法が変更されます。借入限度額や条件にも変化があるので、マイホーム購入予定の方は理解が必要です。
省エネ基準を満たさない新築住宅は住宅ローン減税の対象外
省エネ基準に適合していない新築住宅は、2024 年以降は住宅ローン減税の対象外となる予定です。住宅ローン減税は、住宅ローンを組んで自宅を購入した人が利用できる減税制度です。最大 13 年間、年末の住宅ローン残高の 0.7%を上限に所得税と一部住民税が控除されます。
新築住宅の借入限度額(2024 年 1 月以降)
住宅の環境性能 |
2022・2023 年入居 |
2024・2025 年入居 |
長期優良住宅・低炭素住宅 |
5,000 万円 |
4,500 万円 |
ZEH 水準省エネ住宅 |
4,500 万円 |
3,500 万円 |
省エネ基準適合住宅 |
4,000 万円 |
3,000 万円 |
省エネ基準を満たさない住宅 |
3,000 万円 |
0円 |
(出典:国土交通省
「住宅ローン減税における省エネ性能の必須要件化の概要や省エネ基準への適合の確認方法等について説明資料」)
省エネ性能が高い住宅は、借り入れ限度額の面で優遇されるのがわかります。2023 年までは、省エネ基準に適合していない新築住宅の借り入れ限度額は 3,000 万円だったのに対し、2024 年以降はゼロになっていることがポイントです。政府は省エネ住宅を推進し、今後も基準内容が厳格化されると推測できます。
省エネ性能表示制度が開始
省エネ性能表示制度とは、建物の販売や賃貸に際して、省エネ性能を広告で表示する制度です。省エネ性能に関する関心が高まり、高性能な建物が市場に出てくることを目的としています。消費者にとっては、省エネ性能を比較しやすいというのがメリットです。
2024 年 4 月以降、事業者は新築建築物の販売や賃貸の広告などで、省エネ性能の表示ラベルを表示する義務があります。新聞や雑誌の広告だけでなく、チラシ、パンフレット、インターネット広告にも適用される方針です。
国土交通大臣が表示方法を指示し、従わない場合は勧告処置が取られる場合もあります。新築以外の建物についても表示が推奨されてはいるものの、表示しなくても問題はありません。
(出典:国土交通省「
建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度」)
省エネ性能は新築住宅の価値の 1 つとなる
2025 年 4 月から、新築住宅は省エネ基準への適合が義務化されます。2024 年には住宅ローン減税の見直しが行われ、省エネ基準に適合していない住宅は対象外となりました。省エネ性能表示制度も始まり、省エネ性能を重視する傾向は強まると予想されます。これからマイホームを購入する方は、目先の建築価格だけに囚われず、省エネ性能を積極的に取り入れることで、減税等の制度を最大限活用でき、ご家族の資産を守ることに繋がっていくと理解して、検討を進めると良いでしょう。