2020.02.06建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第22回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#22)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

コペンヒル(デンマーク、コペンハーゲン)
Copenhill (Copenhagen, Denmark)

「コペンヒル」のある湾岸エリアを俯瞰する。運河が無数に入り組み、右手に集合住宅やヨット・ハーバーが、左手には向上エリアとなっている。

快楽的サステイナビリティをもつごみ焼却場

建物名の「コペンヒル」とは、コペンハーゲンの丘(ヒル)という意味である。ビヤルケ・インゲルスがデザインした「コペンヒル」は、要するにごみ焼却場だが、機能的には単にそれだけではない。ごみをエネルギーに変換するこの廃棄物エネルギー・プランには、まずスキー場があり、ハイキング・コース、クライミング・ウォール(ボルダリング)などが併設されている。
 
これはインゲルスが”快楽的サステイナビリティ”と呼んでいる施設だが、2025年までに世界初のカーボン・ニュートラル市になるというコペンハーゲンが掲げたゴールに同調したデザインだ。延床面積41,000㎡の「コペンヒル」はアーバン・レクリエーション・センターや環境教育ハブをもち、社会的インフラストラクチャーを建築的ランドマークにへ関しているのは素晴らしい。
 
「コペンヒル」は当初から意図された社会的副作用をもつパブリック・インフラストラクチャーと考えられていた。「コペンヒル」は隣接する50年前の古い廃棄物エネルギー・プラントを建て替えたもので、ごみ処理やエネルギー生産に関する最新テクノロジーを導入している。工業的ウォーターフロントというロケーションにあるため、近隣にはウエイクボーディング、ゴーカート・レーシングの施設があり、新しいパワー・プラントはさらにスキー、ハイキング、ロック・クライミングのスリルを付加している。
 
パワー・プラント内部のヴォリュームは、設置する機械類の高さを考慮して配列し、その結果9,000㎡に及ぶルーフトップ・スキー・スロープを生み出した。スキーのエキスパートたちはオリンピックのハーフパイプと同じ長さの人工スロープをすべり、またフリースタイル・スキーをしたり、時限スラローム・コースを滑ったりする。他方初心者や子供は低いほうのスロープを滑る。スキーヤーは滑走式リフト、カーペット・リフト、もしくはガラス張りエレベータで内部の焼却炉を見ながら頂上へと戻る。
 
ビジターは「コペンヒル」の頂上に来ると、山のない国で山というものの新奇さを感じる。スキーヤーでない人はルーフ・バー、クロスフィット・エリア、クライミング・ウォール、およびコペンハーゲンで一番高い展望台を楽しめる。その後は長さ490mの木々や藪の中のハイキング・コースやジョギング・コースを下ることになる。
 
「コペンヒル」の連続的なファサードは、高さ1.2m、幅3.3mのアルミニウム・レンガを積み上げて構成されている。それらの間にガラス窓があり、自然光を内部へと導入している。他方南西側ファサードでは世界最長の85mのそれがある。今や「コペンヒル」は、コペンハーゲンでは見逃すことのできないビジターズ・ポイントとなった。

 
建物を俯瞰する。緑のスキー・スロープが最上部から下り、カーブを描いて最下部へと至る。スロープ脇にはハイキング・コースが見える。

運河対岸にある満開の桜並木上部越しに見た「コペンヒル」。

最上部から下ってきた人工スキー・スロープがカーブする地点を見る。まだハイキング・コースができていない工事中の写真。

建物の外壁は高さ1.2m、幅3.3mのアルミニウム・レンガを積み上げて構成されている。

アルミニウム・レンガ間にある大きな開口部からの自然光が内部に導入される。

ハイキング・コースの藪越しにスキー・スロープを見る。

木立や藪が茂るハイキング・コースを登っていく。

スキー・スロープを下りきったところにある公園から見た「コペンヒル」夕景の偉容。

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ダイアグラム1(左) ダイアグラム2(右)

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ダイアグラム3(左) ダイアグラム4(右)

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ダイアグラム5(左) ダイアグラム6(右)

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ダイアグラム7(左) ダイアグラム8(右)

ダイアグラム9

Bjarke Ingels(BIG)
Portrait by Jonas Bie
 
https://big.dk/#projects
Photos: 1,8,9, by Laurian Ghinitoiu/ 2 by Dragoer Luftfoto/ 3 by Aldo Amoretti/ 4,5 by Rasmus-Hjortshoj/ 6 by Soren Aagaard/ 7 by SLA.
Diagram by BIG
 
Design: Bjarke Ingels(BIG)
設 計:ビヤルケ・インゲルス(BIG)
著者プロフィール

淵上正幸 Masayuki Fuchigami
 
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。