2025.05.27建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第85回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#85)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

南京 四方当代美術館 (中国、南京市)
Nanjing Sifang Art Museum (Nanjing,China)

現代国際実用建築展のゲートウェイに位置した建物は、軽やかに空中に浮いた美術館である。

●新しい美術館は、中国の南京近くにある“パール・スプリング”(真珠の泉)と呼ばれる緑が茂ったエリアで、現代国際実用建築展のゲートウェイに位置している。

この美術館では、視点を移動させることで、空間の高い密度を感じさせ、霧や水を用いてその広がりを探求し、それが中国古来の絵画に根差した神秘性を生み出し、空間を特徴づけている。

美術館はパラレルでパースペクティブがついた空間と庭の壁で、構成されている。黒いコンクリート壁の前には竹が植え込まれており、黒い壁面と風にそよぐ竹が見事なアンサンブルを見せている。地上レベルでは直線的な小道が次第に弧を描いて上部へとつながっていく。

空中に高く位置した上部のギャラリーは、時計の進行方向に繋がっていき、最終的には遠くに明朝の首都であった南京の街が見える、視線の軸になっている。

中庭には、南京の中心部にあり破壊された中庭にあった、古い胡同(フートン)のレンガをリサイクルしたものを使用している。美術館のカラーを白と黒に限定したために、美術館は中国の古代の絵画のように見える。しかしそれはまた、内部で展示されるアートワークや建築のカラーやテクスチャーの特徴ある背景ともなっている。以前敷地に生えていた竹は、黒いコンクリートの前景として見事なマッチングを見せている。

美術館は地熱を利用した冷暖房機能をもち、雨水のリサイクルも可能にしたサステイナブル・デザインとなっている。

ミスト(霧)が出て、美術館の存在がエフェメラル(希薄)な雰囲気を出している。

2棟から成る美術館はキャンティレバーで建築的な魅力を携えている。

美しい緑の草地が緩やかに上昇して、アプローチの飛び石が建物に向けて弧を描いていく。

夜景の美術館。大きな開口部から漏れる光が、空中に浮く建物のイメージをさらに軽やかにしている。

黒いコンクリート壁を背景に、細い竹が建物と共に美しい景観を生み出している。

半透明ガラスを使用した建物内部には、白く明るい内部空間が静かに横たわっている。

内部空間に設けられた開口部から南京の遠望が楽しめる。

Design by Steven Holl Architects
設 計: スティーブン・ホール・アーキテクツ

Portrait by Steven Holl Architects

Photos by Shu He.

著者プロフィール
 
淵上正幸 Masayuki Fuchigami
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)、「巨匠たちの住宅 20世紀住空間の冒険」(青土社)その他がある。