2020.06.05建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第26回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#26)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

L タワー&ソニー・センター(カナダ、トロント)
L Tower & Sony Center(Toronto, Canada)

ナイフのブレードのような造形がトロントの夕景に伸び上がる西側外観。

トロント・スカイラインに屹立するナイフ・ブレード

カナダのトロントといえば、同国最大の都市であり、しかも世界の安全都市ランキングで6イという安全都市。多種の文化が集まる文化都市でもある。建築となると多国籍の建築家が集まって多種多様な作品を披露している。ハーバード大学に有名な「ガンド・ホール」を設計したジョン・アンドリュースの「トロント・タワー」を筆頭に、フランク・ゲーリーの「オンタリオ・アート・ギャラリー」、ミース・ファン・デル・ローエの「トロント・ドミニオン・センター」、サンティヤゴ・カラトラヴァの「トロントBCEプレイス」、トム・メインの「トロント大学学生寮」、ダニエル・リベスキンドの「王立オンタリオ博物館」など枚挙にいとまがない。
 
実はそのリベスキンドのトロント第2作目が、ここに紹介する「Lタワー&ソニー・センター」なのだ。建物は以前からあったパフォーミング・アーツ用の「ソニー・センター」の改修プロジェクトで、新しく「Lタワー」が加わり「Lタワー&ソニー・センター」となった。高台になっている敷地はトロントのメイン・ストリートであるヤング・ストリートとザ・エスプラナード・ストリートの交差点という繁華街だ。
 
Lタワーは西側にある金融街のタワー群と、東側にある歴史的なセント・ローレンス地区間の建築的なバッファー・ゾーン的意図をもって建てられた。西側再開発に沿った約460㎡のパブリック・プラザは、センターの付加的な公共スペースとなっている。
 
58階建て、高さ205m、593戸を擁するハイ・エンドのレジデンシャル・タワーは、24時間のコンシエルジュ・サービスがあり、スパ施設、プライベート・シネマ、ラウンジ、図書館、住民およびゲスト用ケイタリング・キッチン、その他のシグネチャー・アメニティー施設が充実している。
 
L形のタワーはクリーンな垂直ラインで伸び上がり、やがて背面がドラマティックに膨張して頂上に至る。205mのスパッとした南側垂直壁面に対し、北側の上部に膨らんだナイフのような曲面壁の緩やかなカーブ・ラインが、不思議なバランスで美しい対比を見せている。これは近隣にあるバークジー・パークに影を落とさないようにデザインされたものだという。奥まったバルコニーとブルーのマリオンが、コンクリート・ストラクチャーを覆うガラス・クラッディングを分節している。
 
「Lタワー&ソニー・センター」は、2009年10月に起工したが、竣工したのは2016年で、その工期は非常に長かった。実は工事中に建設ビルの最上部に置かれたクレーンが、近隣コミュニティの住民などから非常に危ないというクレームが多数出て、そのクレーン問題で工期が長引いたという。
 
ダニエル・リベスキンドのデザイン意図は、トロントのドラマティックなスカイラインにおいて、アイコニックなビルを創造することであった。「Lタワー」は稀有な光の性質と、敷地に備わった者s会的条件により形成されたといえる。多様性に満ちた活気のあるアーバン・コンテクストにおいて、それは「ソニー・センター」と共に、新しいエキサイティングな場所性を発揮するシャープな「Lタワー&ソニー・センター」として開花した。
 
青空を背景に高さ205mに伸び上がる垂直線とカーブを描いた曲線が頂点で一致するシャープさが、トロントのスカイラインに美しいシルエットを描いている。

南西方向から見た全景。南面側ファサードはフラットに205mの高さとなっている。

北東側から見た外観。曲面壁のファサードが北側。頂部の出っ張りは工事用クレーン。

北東側から見た外観。曲面壁のファサードが北側。頂部の出っ張りは工事用クレーン。

建物の膨らんだ部分の西側外壁を見る。小さな横長の白い部分が奥まったバルコニーで縦に連続している。

トロントの高層アーバンスケープがパノラミックにエンジョイできるワイドな開口部。

モノトーンでシックな造りのキッチン周りのデザイン。

トロント・ユニオン・ステーション越しに見た夜景の「Lタワー&ソニー・センター」。シャープな美形はトロント・スカイラインにおける屈指のアイコン建築といえる。

基準階平面図

南北断面図

東立面図

西立面図

南立面図

Daniel Libeskind / Studio Libeskind
Portrait by Ilan Besor
 
 
Photos by Doublespace Photography
Drawings by Studio Libeskind
 
Design: Daniel Libeskind
設 計: ダニエル・リベスキンド
著者プロフィール

淵上正幸 Masayuki Fuchigami
 
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。