常夏のマイアミはリゾート地であるだけに、いわゆるマンションとなると広々としたゴージャスなものが多い。加えてデザインに凝るものが増えてくる。「ワン・サウザンド・ミュージアム」はそのような今日的なマイアミ・スタイルの中で、群を抜いたデザイン性の高い作品ということができる。
建物はマイアミのミュージアム・パークという公園の真向かいにある。ビスケーン湾に面した広さ30エーカーの公園は、2013年にマイアミ・ダウンタウンにおける重要な公園のひとつとして開発されたものである。ここには同市の新しいアート・ミュージアムや科学ミュージアムがあり、市民にとっては特に人気のある公園となっている。
高さ約213mの超高層集合住宅タワーである「ワン・サウザンド・ミュージアム」は、62階建て延床面積約84,600㎡というかなり大きな集合住宅だ。しかし全戸数はわずかに83戸と少ない。その内訳はタウン・ハウス:4戸、ハーフ・フロア・ユニット:70戸、フル・フロア・ユニット:8戸、ペントハウス:1戸、駐車場260台。これから分かるのは、一番小さな住戸でもハーフ・フロアの広さがあり、各住戸は平均3台分の駐車スペースがあることになる。まさにマイアミならではの豪華さだ。
タワーのデザインはザハ・ハディド事務所の超高層ビルに関する研究の成果を引き継いだもので、建物全てに及ぶエンジニアリング技術で裏打ちされた、ザハ特有の流動的建築表現をまとっている。建物のコンクリート・エクソスケルトン(外骨格)は、ペリメーター部分を流体的なラインで構成し、それらが構造的市自体である縦型交差ブレースとなっている。
最高階から最低階まで一つの連続したフレームで構成された建物は、上昇するに連れてベース部分から立ち上がった柱が扇形に広がりブレースとなり、コーナー部分で側面からの同じようなブレースと繋がることによって建物をひとつの堅固なチューブとし、マイアミの強い風荷重に対抗している。そのカーブした支持体がハリケーンを物ともしない強固な大ヤゴナル・ブレース(交差ブレース)を形成している。
「ワン・サウザンド・ミュージアム」はグラスファイバー強化コンクリート製の型枠を使用し、工事がタワーの上部に進むに連れて所々で残存されている。このような永久的なコンクリート型枠により、また最小のメンテナンスが可能な建築的仕上げとすることができた。
エクソスケルトンのフレームが建物のペリメーターにあるため、タワーのインテリア・フロアはほとんどコラム・フリーとなっている。外壁に現れた巨大なブレースの曲率により、各階のフロア・プランは少しずつ異なっている。低層階ではテラスがコーナーからキャンティレバーで出ているのに対し、上層階では巨大なブレースの背後に配されている。
アメニティー施設としては、最上階にアクアティク・センター、ラウンジ、イベント・スペースがあり、ランドスケープ・デザインが施されたガーデン、テラス、プールなどはロビーや居住者用パーキングの上部に設けられている。
なおザハ・ハディドは2016年3月31日にここマイアミの病院で他界した。ザハ終焉の地に完成した「ワン・サウザンド・ミュージアム」は、彼女の手から生まれた流麗なデザインの形見だ。それは彼女の冥福を祈っているかのような佇まいで、マイアミの海辺に屹立している。