2020.09.04建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第29回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#29)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

ル・ロゼ新フィルハーモニック・コンサートホール(スイス、ヴォ—州)
New Philharmonic Concert Hall at Le Rosey (Canton de Vaud, Switzerland)

敷地内の木立越しに見た全景。ステンレス・スティール製のドームはUFOのごとき擁そうで輝いている。左側の大きな開口部がエントランス。

先端的な装いに身を包んだサステイナブル・コンサートホール

パリの「ラ・ヴィレット公園」のコンペに勝利し、一躍世界の建築界に当確を現したバーナード・チュミは、ル・コルビジェと同様スイス人ながらフランス国籍を取り、同国で活躍してきた。その後ニューヨークにも事務所を開設。コロンビア大学建築学部のディーンを努めながらデザイン活動をし、同大学にエポック・メイキングな「ラーナー・ホール」を設計し話題になった。現在はディーンをかなり前にやめて、ニューヨークとパリで設計に専念している。
 
数カ月前に、久しぶりに彼の「ビンハイ科学博物館」を本欄に掲載したが、要塞のようなそのデザインは目を見張るものがあった。今回はそれとは違って、故郷スイスに完成した未来的な様相をした先端のコンサートホールである。
 
「ル・ロゼ新フィルハーモニック・コンサートホール」はスイスのヴォー州にある最古の著名な寄宿学校のひとつにできたコンサートホール。この寄宿学校はジュネーブとローザンヌの中間にあるロール近郊の14世紀の由緒ある古城「シャトー・デュ・ロゼ(ロゼ城)」に、ポール・エミール・カーナルによって創立された「ロゼ学院」である。今回完成したコンサートホールは、創立者の名前をとって「カーナル・ホール」と呼ばれている。
 
バーナード・チュミによってデザインされた「ル・ロゼ・新フィルハーモニック・コンサートホール」は、木造の矩形のコンサートホールを内蔵したステンレス・スティール製の低い円形ド—ム。歴史的なキャンパスという敷地の中に、UFOのごとき超現代的な建築が追加されたことで、その対比が新しい息吹を流し込んだと言われて好評だ。
 
学校側から要求されたプログラムは、900席のコンサートホール、ブラック・ボックス・シアター、会議室数室、リハーサル&練習室、図書室、ラーニング・センター、レストラン、カフェ、学生ラウンジ、その他のアメニティで盛り沢山の内容だ。
 
チュミが考える先端的なフィルハーモニック・ホールは、いかにしてサステイナビリティ・ゴールと組み合わせることができたのか。低く配置された反射する直径80cmのメタル・ド—ム内に、リサイクルされたOSB圧縮材を全面的に使用したコンサートホールを配し、エアコンなしの機械式自然換気を採用。建物は歴史的なキャンパスに、現代建築的なイメージで溶け込んでいる。
 
このプロジェクトでは材料が建物のコンセプトに重要な役割を演じている。というのは、メインであるコンサートホールは、ド—ム型の建物内部に木造で独立して建っており、全体を覆う反射性のメタル・ドームとコントラストをなしている。この2重外皮のデザイン・コンセプトは、コンサートホールを音響的に独立させ、近くを走る鉄道からの騒音を減らしている。
 
世界的に著名なオブ・アラップ・ニューヨーク社が音響設計を担当した。「カーナル・ホール」についての要求事項は、非常に野心的なものであった。曰く、国際的な学生コミュニティにサービスできるワールド・クラスのコンサートホールであると同時に、世界一流のオーケストラを迎えられるものであった。「カーナル・ホール」のオープニングにで、巨匠シャルル・デュトワの識によるロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団のパフォーマンスが開催された。
 
俯瞰した全景。敷地に落差があり、エントランス部分は1階レベルだが、右手の当たっている側は地下レベルから立ち上がって地上1階、地上2階建てになっている。

エントランス・ホワイエ。右手の上下の開口部がコンサートホール。蛍光灯がある天井の上側にラウンジが配されている。

リサイクルされたOSB圧縮材を全面的に使用したコンサートホール。正面の開口部の先がエントランス・ホワイエ。左右の壁には対称的な木造デザインが施され照明が組み込まれている。

コンサートホールの2階バルコニー席。1階と同じ木造デザインが壁面にある。

右手の図書室と左手のラーニング・センターは視覚的につながる配置をとっている。

階段室の上部にブリッジが飛んでいるフルハイトの吹抜け空間。円弧を描くトップライトからの自然光で明るい。

南側外壁はステンレス・スティール屋根(外壁)が地表近くまで降りて昼光をシャットアウトする。

夜景のエントランス外観。左端の2階建て部分はレストラン。右端の明るい1階部分はオフィス。

1階平面図 2階平面図

アクソノメトリック図

スケッチ-1

スケッチ-2

Bernard Tschumi / Bernard Tschumi Architects
Portrait by Martin MAi
 
 
Photos 1,5,7,9: Christian Richters / Photos 2,3,4,6,8: Iwan Baan
Drawings, Axonometric & Sketches : Bernard Tschumi Architects
 
Design:  Bernard Tschumi
設 計:バーナード・チュミ
著者プロフィール

淵上正幸 Masayuki Fuchigami
 
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。