2020.10.02建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第30回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#30)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

クァンギョ・ガレリア(韓国、クァンギョ)
Galleria in Gwanggyo(Gwanggyo, Korea)

「クァンギョ・ガレリア」のコーナー側から見た全景。自然石のようなストーン。ファサード。

驚愕的ファサードで魅了する最新の韓国デパート

韓国は隣国の中国ほどではないにしても、アジアでは著名海外建築化のデザイン作品が多い国である。例えばOMAの「ソウル国立大学美術館」、ザハ・ハディドの「東大門デザイン・プラザ」、ジャン・ヌーヴェルの「サムスン美術館 Leeum」、MVRDVの「ソウル・スカイ・ガーデンズ」など、世界の著名建築家の作品がひしめいている。
 
今回OMAのクリス・ヴァン・ドゥインがデザインした「クァンギョ・ガレリア」は、1970年代に韓国で初めて生まれた大規模デパートであるガレリアの支店だ。以来同店は韓国の小売市場において、先端を疾走する大手デパートとなった。今回の新店舗はソウル南部にあるニュータウンのクァンギョ地区に完成した国内6番目の支店で、同社の最大店舗である。
 
OMAの建築デザインには幅があるといえばそうだが、これはビックリものだ。建物はまさに奇想なデザインをまとった巨大な岩石の両国といった印象だ。都市のワン・ブロックを占める巨大な矩形の岩石を切り出したような外壁に、切子面状のガラス開口部が、蛇のようにくねって外壁に取り付いているといった異様な外観。
 
クァンギョ・ニュータウンの中心に位置する建物は、アーバン・デブロップメントによる特有の高層集合住宅タワー群に囲まれている。「クァンギョ・ガレリア」のファサードは、自然石のような素材をモザイク状に張り詰めた不思議な表情。それは近隣にあるクァンギョ・レイクパークにおける自然を参照したデザインなのだ。
 
建物はそのクァンギョ・レイクパークと、林立する高層集合住宅タワー群のちょうど中間あたりに位置している。建物の外壁を覆うストーン・ファサードのテクスチャ—が、レイクパークの自然を喚起させると同時に、クァンギョ市民の自然に対する視覚的な拠り所となっている。
 
建物は地下1階地上12階建てのデパート。外壁を取り巻く開口部は、1階から徐々に上昇しながら建物をループ状に取り巻いて行き、文化的なアクティビティもできるルーフ・ガーデンに至る。つまりこの開口部の内部は来客用のパブリック・ループとなっており、クァンギョの街並みを楽しみながら、自分の目指す売り場へと至ることができるデザイン。
クリス・ヴァン・ドゥインのデザイン・ポイントは、ショッピングとカルチャー、都市と自然をミックスすることで、ショッピングの予測可能性をはるかに超えた場所としての「クァンギョ・ガレリア」が、市民に親しまれることであった。
 
設計を担当したクリス・ヴァン・ドゥインはデルフト工科大学でマスターを取得。1996年にOMAに参加し、2014年にパートナーになった。OMAの代表作のひとつである北京の「CCTV」をはじめとする主にアジアの作品を担当してきたが、「ユニヴァーサル・スタジオ・ロサンゼルス」「プラダ・ニューヨーク&ロサンゼルス・ストアーズ」などアメリカ作品も担当。最近では「モスクワ現代ガレージ美術館」(2015)、「ミラノ・プラダ財団」(2015)、「アレクシ・ド・トクビル図書館」(2017)なども手掛けたシャープなセンスをもつパートナーである。
 
大通り側正面ファサード。この強烈なアイデンティティーの表現は、OMAデザインの中でも異色中の異色が。ガラス部分がパブリック・ループ(来客用のループ状通路)となっている。

反対側コーナー側から見た全景。周囲には高層の集合住宅タワーが林立している。正面1階の3角形部分がエントランス。

コーナー部分に表現された切子面状ガラス開口部。内部には通路に加えて、エキシビジョンやパフォーミングのスペースが設けられている。

1階エントランス・ホール。ここから切子面状の開口部であるパブリック・ループがスタートしている。

大通り側に面したパブリック・ループ内を見る。明るい通路からはクァンギョの街並みを見ながら、左側の店舗群をもウインドーショッピングすることができる。

パブリック・ループの途中には、特にコーナー部分には、レスト・スペース、エキシビジョンやパフォーミングスペースが設けられている。

奇想なデザインをまとったガレリア・デパートは、林立する高層の集合住宅タワー群に囲まれている。左手に見えるのがクァンギョ・レイクパークの一部。

立面図

平面図

ガレリア・コンセプト図

ヴォイド・タワー・アクソノメトリック

Chris van Duijin / OMA
Portrait by Fred Ernest / Courtesy of OMA
 
 
Photography by Hong Sung Jun for OMA
Images of Drawings, Concept, Axonometric: Courtesy OMA
 
Design: Chris van Duijin/ OMA
設 計:クリス・ヴァン・ドゥイン / OMA
著者プロフィール

淵上正幸 Masayuki Fuchigami
 
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。