2020.11.02建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第31回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#31)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

ガーデンハウス(アメリカ、ビバリーヒルズ)
Gardenhouse(Beverly Hills, USA)

早朝に俯瞰した「ガーデンハウス」。屋上に乗った白い2階建ての住戸群が目立っている。ウィルシャー通りが春かかなたのビバリーヒルズ方向へ伸びている。

緑化壁マンション+切妻住宅の変則ミックス集合住宅

ビバリーヒルズに通じるウィルシャー通りといえば、ロサンゼルスを代表するストリートのひとつ。MADの設計による「ガーデンハウス」は、このストリートとスタンレー・ストリートの交差点に立つユニーク極まりないデザインの集合住宅だ。1階には店舗が入り(一部住戸もある)、2階から5階までに集合住宅が配され、全18戸を含んでいる。
 
この建物で特にユニークなのは、2階と3階の外壁が生きた草木で覆われた緑化壁面となっていることだ。また4階と5階には切妻屋根の白い2階建ての住戸群が乗っているのだ。これは日本でいう緑に覆われたマンションの上に、戸建ての住宅が乗っているという面白い構成だ。
 
植物に覆われた外壁は、まさにビバリーヒルズの丘の濃きランドスケープを喚起するデザイン。緑にランドスケープされた部分の上に顔を出した一群の白いファサードや不規則な窓形を持つ切妻屋根の集合住宅は、ダイナミックかつユニークな界隈性を発揮。機知に富んだ遊び心のあるデザインは、ロサンゼルスのアイコニックなヒルサイドに対するオマージュともいえそうだ。
 
このグリーン・ウォールは、現在アメリカで一番大きな生きた植物壁といわれており、MADはその草木を周到な計画のもとに選んだ。乾いた起工のウエストコーストにおいて、同地の乾燥耐性のある多肉植物やつる科の植物に近い品種を選んでいる。それにより余分な灌漑やメンテナンスは不要だ。その結果この外壁は、オーガニックでナチュラルな季節的変化を界隈に与えている。
 
延床面積4,460㎡の建物は、種々のハウジング・タイポロジーを含んでいる。曰くスタジオ2件、コンドミニアム8件、タウンハウス3件、ヴィラ5件。このようなバラエティに富んだ組み合わせは、結果的にハイセンスなコミュニティを構成している。この種の小さな開発においてさえも、個性的かつグループ的フィーリングを生み出している。伝統的なアパートメント・システムと違って、個々の住戸は独立した出入口用のサーキュレーション・ルートがある。
 
白い切妻屋根の住戸群を上部から俯瞰すると、中央部の2階レベルまで深く彫りこまれた中庭が見える。これは小さなコミュニティにおけるランドスケープされた集会スペースでもある。方位、隣棟間隔、中庭を見下ろすバルコニーの配置などを考慮し、住人と彼らが共有する”シークレット・ガーデン”との、プライベートで静かなインターラクションが可能になっている。
 
「ガーデンハウス」の住人は、スタンレー・ストリート側1階のエントランスからアプローチする。エントランスはヒルサイドに穿たれた穴のような感じで、ほの暗くシュールな雰囲気だ。住人はしばし光と影、水の音による”お伽の国”の幻想的な旅をすることになる。この下に立つと、住人はフレーミングされた太陽、宙、ランドスケープ、見ずなどの素晴らしさに驚かされる。それは正に、都市の現実から住民を引き離す生きた絵画のように美しい。
 
「ガーデンハウス」によって、MADは世界中の高密度都市におけるステレオタイプ化した四角い箱型のリビング環境に対する反証を試みた。自然や、シェアされたコートヤードや、住戸のアウトドア・スペースなどとの固有のコネクションによって、都市環境からわずか数メートルのところに静謐なオアシスを創造した。その結果、全体的に調和の取れた生活体験を提供するために、構築かされた環境と自然環境を巧みにコネクトした実証的な例を提示できたのはさすがである。
 
真上から見下ろすと、切妻屋根群の中央に中庭が埋め込まれており、その中央に井戸のような穴が見える。

左右に走るウィルシャー通りとスタンレー通りの交差点に立つ建物は、1階に店舗、2階と3階が緑化壁面の住戸群、4階と5階が切妻の住戸群というユニークな組み合わせが面白い。

交差点の高みから見た「ガーデンハウス」とウィルシャー通り。庇がない切妻屋根の住戸群がちょっとした東洋的な雰囲気を醸している。

びっしりと緑が植え込まれた緑化壁面。ロサンゼルス界隈は乾燥気候だから通常はメンテが大変だが、乾燥耐性の植物なのでメンテは楽らしい。

1階中央にある噴水を巡る通路。円形の反射プールに水が落ち涼しい雰囲気を醸す。2階の中庭から太陽が差し込む。

中庭は都会の喧騒をちょっと離れただけで静かなオアシスとなっている。

2階建ての切妻住戸は向きがいろいろと少しずつ変わっている。

切妻住戸の内部は高い吹抜けに加えて開口部が大きく、外部のような明るさで開放感に満ちている。

1階平面図

2階平面図

4階平面図

5階平面図

MAD Architects
Portrait by MAD Architects
(From left to right: MA Yansong, Dang Qun, Yosuke HAYANO)
 
 
Photos 1,4,9 by Darren Bradley / Photos 2,3,6,7,8 by Nic Lehoux/ Photo 5 by Manolo Langis
 
Drawings by MAD Architects
 
Design: MAD Architects
設 計:MAD Architects
著者プロフィール

淵上正幸 Masayuki Fuchigami
 
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。