シカゴに建った「ソルスティス・オン・ザ・パーク」は、「科学&産業博物館」、1893年の世界コロンビア博覧会のホワイト・シティ、「バラク・オバマ大統領センター」などの敷地である歴史的なジャクソン・パークの北端に、高さ70mの勇姿で屹立している。
矩形のフォルムで個性のないプランをもつ多くのアパートメントに比較して、建物は類をみない斬新な様相を呈したシカゴのアパートメントとなった。シカゴのスター・アーキテクトであるジーン・ギャングは形態と機能をつなぐ試みをしつつ、ここではソーラー効果を追求するデザインを展開している。
「ソルスティス・オン・ザ・パーク」はシカゴの公園に面した26階建ての集合住宅。比較的小規模な建物だが、その特徴あるフォルムの背後にある微に入り細を穿ったデザイン・ポリシーは圧巻の魅力だ。建物名のソルスティス(Solstice)は、冬至や夏至の太陽の位置を示す至点のことである。つまり1年365日の太陽の高さから、太陽光の入射角を考慮したデザインが施されているのだ。
26階建ての建物のファサードを見ると、各住戸のガラス開口部が傾斜しているのがわかる。冬には太陽光の導入を最大にしてパッシブ・ソーラーで暖房し、夏には太陽光を最小にしてヒート・ゲインを減らし、エアコンの使用を減少させるために、建物のファサードをシカゴの緯度による太陽光の最適角度72度に合わせて傾斜させているのだ。建物は力強くエレガントなエクステリア・デザインが、ひとつの凝集的な建築表現として上から1階レベルまで貫かれている。
スタジオ・ギャングではこうしたファサード形態を“太陽の彫刻”と呼び、太陽の入射角による環境的利点を生かしたデザイン・プロジェクトとして探究しているのだ。グリーン・ルーフをもち250戸を要する建物は南方向に公園を見晴らし、北側にシカゴのスカイラインを望む素晴らしい立地である。
建物の1階には明るいエントランス・ロビーがあり、フロント・デスクの両側には住人のためのふたつのコミュニティ・スペースがある。左側のスペースは図書室であり、チェス用の伝統的な空間でもあり、さらに敷地にあった樹木からつくられた大きなテーブルがある集会室となっている。右側は住人ラウンジとなっており、大きなテレビ・スクリーン、ゲーム室、追加の着席スペースがあり、その他カフェ、フィットネス・センター、アウトドア・デッキ(中庭)へのアクセス・スペースにもなっている。
上階にあるアパートメントの1戸に入ると、すぐさまジャクソン・パークが視界を埋め尽くし、驚愕的体験をすることになる。長く傾斜したフルハイトの開口部を通して、木々の樹冠がより大きく、より近くに感じられる。すでに広い頭上スペースが、さらにワイドに感じられる開放感は圧倒的な印象だ。
平凡な建築の建設ラッシュが続く中で、スタジオ・ギャングの延床面積33,700㎡の新しいアパートメントは、省エネを追求したサステイナブルな建築である。そうした機能性を超えてユニークなデザインに昇華された、ミシガン湖畔の公園におけるイコンと呼ばれている。
シカゴはニューヨーク、ロサンゼルスに次ぐアメリカ第3番目の都市だが、超高層ビル発祥の地として建築史にその名を残す重要な都市である。それ故著名建築家も多いが、中でも「ソルスティス・オン・ザ・パーク」を設計したスタジオ・ギャングは、1997年に事務所を開設したジーン・ギャング女史が率いる設計集団で、ユニークな集合住宅プロジェクトが多い事務所として話題の存在だ。