「ナンシー&リッチ・キンダー・ミュージアム」は、全てのファサードの1階レベルにガーデンを挿入させた多孔性が特徴となっている建築である。各ファサードに織り込まれた7つのガーデンが、エントランスおよびその他の建物全周のエレベーションにリズムを与えている。ビソネット通りとメイン・ストリートの交差点に位置する最も大きなガーデンが、ヒューストン・キャンパスの新しい美術館への中央エントランスの位置を示している。
「キンダー・ミュージアム」のエントランス・ロビーに立つと、ガーデンとヒューストン・キャンパスの茂った植栽が4方向に見え、新しい開放性によって近隣コミュニティーを招き入れるエネルギーを感じることができる。
テキサスの空の下に、新しい美術館の屋根を覆うユニークかつ明るいキャノピーが広がっている。クラウド(雲)の曲面から発想された凹面カーブが、屋根の幾何学的形態を決定している。自然光が凹面形屋根のスリットから侵入し、天井がクラウド形(凸面形)をもつ最上階のギャラリー群にパーフェクトな明るさをもたらす。2層に渡って水平的に展開されているギャラリー群は、全て自然光を取り込んでいる。
カーブした天井の下側は光のレフレクターとなり、個々のギャラリーの展示状況に応じてスライスされた光を取り込む。これらのカーブした光のスライス群は、ギャラリー・スペースをユニークな方法で演出する。それは新しいキャンパスを特徴づける繁茂した植物や水というオーガニックな雰囲気に呼応している。光は機械的に反復するようなものでなく、ギャラリー全体の状況を反映して流動的な表情を見せている。
ギャラリーからギャラリーへの移動は、植物用のトレリスでグレアーを抑えた7つのガーデンへの景色で分割される。ギャラリー群は、オープン・フォーラムの周囲に展開されている。この中央フォーラムはアート・エキジビション用の広い空間であり、上階への垂直動線にもなっている。
「キンダー・ミュージアム」の外壁はスティーヴン・ホール・アーキテクツの40年以上にわたる、半透明マテリアルの現象に関する研究のひとつの成果である。厚手の半透明ガラス・ファサードは導入される自然光の新しい知覚形態を創造する。すなわち内部に光を拡散させ、熱を含まないルミネセンス(冷光)を放つのだ。
厚さのある半透明性材料を新しい手法で生み出すために、ホール事務所ではアクリルのロッドを半分に割き、それらをアクリル・シートにラミネートさせた。すると光は内部で輝き、アーチ状の光のバリエーションとレフレクションを曲面壁のインテリア空間に投影する。それが今回の建物に使用されている外壁の半透明ガラスだ。
半透明ガラスで覆われた水平な建築である「キンダー・ミュージアム」は、そのイノヴェイティブなガラス・チューブのファサードが、アラバスターのようなソフトなテクスチャーを見せている。直径約90cmのガラス・チューブは上部と下部がオープンになっており、エア・サーキュレーションによるチムニー効果で、ソーラー・ゲインを70%も減じている。
このコンセプトは、コンペ時におけるスティーヴン・ホールの提案のひとつで、近隣にあるミース・ファン・デル・ローエ 設計の透明ガラスによる美術館と、ラファエル・モネオ設計のオパーク・ストーンの美術館とは著しいコントラストを見せている。
夜間、明るく光を放つ半透明ファサードは、ウォーター・ガーデンに映り込み、近隣住民のミュージアムへの参加を誘っている。