2021.01.05建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第33回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#33)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

フューチャー・タワーズ(インド、プネー)
Future Towers (Pune, India)

山のような複雑な外観を見せる建物は1,068戸を内包する大規模な集合住宅だ。

複雑な住棟形式をもつマス・ハウジング

インド中西部のアラビア海に近いプネーのアマノラ・タウンに完成したMVRDV設計の「フューチャー・タワーズ」は、ハウジングを中心とした、商業施設、パブリック・アメニティ—を含む延床面積370,000㎡の巨大な複合施設である。
 
建物は今日のマス・ハウジングに失われた資質を復活させているのが特徴だ。すなわち多くの前にティー、パブリック施設、公園、他民族の融合などと一帯になった高密度化である。建物のファサードは全てコンクリート製で、大きな開口部が特徴だ。オープンとなったヴォイド(吹抜け)空間、コア、廊下により、自然換気や自然採光を可能にしている。
 
サーキュレーション・スペースや公共部分には自然石が使用され、他方バルコニーはすべて木造のウッド・フロアとし、種々の素材を巧みに使い分けている。1,068戸のアパートメントは、第1期計画として完成したもので、多様な民族を含むインド国民の人気を得ている。このプロジェクトの狙いは、プネー県の活気に満ちたサブ・センターを創造することであった。
 
周囲に広がる400エーカーの敷地は大きなガーデンとなり、地下部分によって基壇部分がもちあげられた第1期の建物は、パーキングをはじめ、学校、スイミングプール、店舗、カフェ、バー、シネマ(現在進行中)など、種々のパブリック施設が併設されている。建物はヘキサゴナル(6角形)・グリッドを構成し、各住戸に眺望と十分な自然光を与えている。
 
中廊下を持つ9棟の建物は、4つのコアによって効率的なサービスを得ることができる。コートヤード群は相互に連結され、住民に居心地の良い社交的な環境を提供している。またその他にも、ハーブ・ガーデン、イベント・プラザ、フラワーポットガーデン、運動場、彫刻ガーデンなど、種々の施設がつくられた。
 
インド全域には多数のこの類いの開発コンペがあるが、MVRDVは効率でなく居心地にウェイトを置いた、ハイレベルな質をデザインに盛り込んだマス・ハウジングのコンペにチャレンジし勝利した。スタジオ・サイズからヴィラ・サイズのアパートメントまで、インドの集合住宅基準を分析してデザインさせた。それは連続するバルコニー群を特徴とし、自然換気のサービスを強調したものであった。
 
アマノラ・タウンの長さ600mに及ぶ細長い敷地は、ちょうど街の中心部をふたつに分割している。すでに当初から高層、高密度、ユニークかつアイコニックな建物という”ヴァーティカル・シティ”が要望されていた。MVRDVは細心のアナリシスから、ヘキサゴナル・グリッドのスラブ・ネットワークを採用。スラブ間に120度の角度をもつヘキサゴナル・グリッドは眺望と自然採光にとっては理想的だった。
 
個々の建物は2層のポディウム(基壇)の上に建設されており、そこにはパーキングやロジスティクスが配されている。公園側と緑のペデストリアン通路に沿って、商業施設を含むポディウムが並んでいる。ポディウムには開口部が設けられ、パーキングに自然光を導入している。個々のコートヤードの特徴あるアメニティー施設は、ポディウムに配置されている。コートヤード間に開けられた大きな開口部は、コートヤード同士を連続させる通路となっている。
 
大胆なフォルムをもつ外観にも関わらず、建物は合理的なレイアウトになっている。グリッド同士の結合部分には、垂直導線とエントランス・ロビーを含むコアがある。コアは中央廊下を通じて3つのスラブに接続している。中廊下式のため、中央廊下は4つのコア全てにリンクでき、誰もが何処にでもアクセス可能である。
 
建物は個々のスラブの長さにより、いくつかのフロア・プランのバリエーションがある。個々のアパートメント・タイプは、アパートメントのコンビネーションにより、いくつかのサイズの異なるパターンが可能である。各スラブやテラスの妻側部分は、豪華アパートメントやルーフ・テラス・アパートメントになっている。住戸形式は240以上の住戸タイプがあり、非常に数多くの個人生活スタイルがあることを物語っている。
 
9棟の建物はエクスパンション・ジョイントで結合されている。グリッド・レイアウトによるファサードの堅牢さとラフなテクスチャ—が、ユーザーの個人的オーナーシップのシンボルになっている。ヴォイド空間やオープン・コアが自然換気や自然採光を助長する、サステイナブル・デザインも充実した巨大な集合住宅タワーが完成した。
 
建物やコートヤードは全体に2層のポディウムの上にのっている。

俯瞰すると複雑な形態がわかる。建物は9棟からなっており、写真では8棟しか見えないが、中央の一番高いコアの後ろにもう1棟がある。

建物の妻部分を見上げる。この部分にはテラス付きの豪華な住戸が配されている。

コートヤードを囲んだ建物外壁を見る。個々の外壁にあるカラフルで大きなヴォイド空間は、住民にとってのソーシャル・スペースだ。

夜景のコートヤードを見る。夜になると昼間と違って、建物は更にカラフルになり、にぎやかで華やいだ雰囲気を醸して素晴らしい。

コアの垂直吹抜け空間を見上げる。自然換気、自然採光を担っている。

コートヤードの日常風景。各住戸のコートヤード側は全面開口部となっている。

コートヤード同士をつなぐカラフルな通路は、種々のイベントや子供たちの遊び場にもなる。

メゾネット・タイプの豪華アパートメント。

基準階平面図

MVRDV(From the left, Winy Maas, Nathalie de Vries and Jacob van Rijis)
Portrait by Barbra Verbij
 
 
Photos by Ossip van Duivenbode
Drawing by MVRDV
 
Design: MVRDV
設 計:MVRDV
著者プロフィール

淵上正幸 Masayuki Fuchigami
 
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。