2021.02.12建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第34回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#34)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

オウパスMEドバイ・ホテル(アラブ首長国連邦、ドバイ)
ME Dubai Hotel at the Opus (Dubai, United Arab Emirates)

南側から見た全面ガラス張りの「ザ・オウパス」ビル。「オウパスMEドバイ・ホテル」はこのビルの内部に入っている。

かつてない建築が熔融した形態美学

アラブ首長国連邦の最大都市ドバイ。「オウパスMEドバイ・ホテル」は、ドバイ・ダウンタウンとドバイ・ウォーター・カナルのビジネス・ベイに近いブルジュ・ハリファ地区にある。この建物はザハ・ハディドが2007年に、建築とインテリアを共に設計した唯一のホテルである。それはソリッド&ヴォイド、不透明&透明、インテリア&エクステリアというハイブリッドのバランスをコンセプトとしてデザインされた。
 
延床面積84,300㎡をもつ建物は別個のふたつのタワーとしてデザインされ、それらを合体することで、キューブ形のひとつの全体として誕生した。キューブの中心部は熔融し、建物デザイン上の非常に重要なヴォリュームである自由形態を創造している。建物両サイドの塔状部分は、地上レベルでは4層吹き抜けのアトリウムで連結され、地上71mの位置では非対対称な幅38mの空中ブリッジで繋がれている。
 
ガラス・キューブである建物の正確な直覚的ジオメトリーは、その中央にある8層吹き抜けのヴォイド空間の流動性とはドラマティックな対照をなしている。キューブの二重ガラス・インスレーション・ファサードは、UVコーティングと鏡面フリット・パターンによってソーラー・ゲインを減少させている。建物全体に応用されたこのフリット・パターンは、建物の矩形フォームの明るさを強調。他方、絶えざる反射と透明の変化による光の戯れを通して、建物全体のヴォリューム間を減少させている。
 
6,000㎡にわたるヴォイド空間のファサードは、4,300枚の一重もしくは二重カーブ・ガラス・ユニットで覆われている。高効率のガラス・ユニットは、8mm厚のロウ・アイアン・ガラス(内側にコーティング)、16mmの間隙、および6mm厚の二重クリア・ガラスに1.52mmPVC樹脂をラミネートしたもので構成されている。ヴォイド空間のカーブしたファサードは、3Dデジタル・モデリングでデザインされたもので、強化ガラスを必要とする部分にも使用されている。
 
キューブ形建物のガラス張りファサードは、日中においては空を初め、太陽、周辺の都市景観を反映する一方、夜間のヴォイド空間は個々のガラス・パネルに装備された調整可能なLEDライトのダイナミックなイルミネーションで輝いている。
 
インテリアに目を向けると、ザハ・ハディド自身がデザインした家具がホテル全域に渡って展開されている。’ペタリナス’・ソファとオットマンがロビーに配されている。これらは長いライフサイクルをもつ材料からできており、その構成部材はリサイクル可能だ。ベッドは’オウパス’・ベッドが使用され、デスク付きの’ワーク&プレイ’・コンビネーション・ソファはスウィートルームなどに置かれている。その他彼女が2015年にデザインした’ヴィターエ’・バスルームが各客室に使用されている。
 
「オウパスMEドバイ・ホテル」には74の客室と19のスウィートルームがあり、「ザ・オウパス」ビル全体では、オフィス、サービス付きレジデンス、レストラン、カフェ、バーなどがある。その他日本の炉端焼きレストランのROKAや、MAINEランド・ブラッセリ—などが入っている。
 
「ザ・オウパス」ビル全域にあるセンサーが、省エネのために客の混み具合によって換気と照明を調節する。他方「オウパスMEドバイ・ホテル」、はインターナショナルME(メリア)ホテル群のサステイナブル・デザインと同じ手法に依拠している。
 
ホテルのゲストは滞在中にステインレス・スティールのウォーター・ボトルを受け取り、ホテル中に配置されたウォーター・ディスペンサーから飲料水を得る。客室にプラスティック・ボトルは一切なく、プラスティック・フリーのホテルとなっている。ホテルではさらに食品廃棄を減らすためにビュッフェをサーブせず、食べ残した食品をリサイクルする生ごみ処理機を用意しているという、サステイナブル・デザインの先端を疾走するホテルでもある。
 
ザハ・ハディドが溶融したと表現しているヴォイド空間を見上げた夜景。従来の建築には見られない建築美を呈示している。 

ヴォイド空間の中を見通す。溶融したイメージを強調するために凹凸がある。個々のガラス・パネルに装備されたLEDのイルミネーションで幻想的な雰囲気を醸している。

南西側からの全景。夜のみならず昼景でも溶融口ともいうべきヴォイド空間が不思議な魅力を放っている。

北側からの夜景。左右の2棟をつなぐ空中ブリッジは、北側ファサードにはなく南側のみになっている。

照明までが有機的なラインを描く4層吹抜けのロビー空間。ザハ・ハディドの面目躍如といった流麗なデザインが展開されている。

キャンティレバーで突出した2階レベル越しにロビー空間を見下ろす。 

建物のコーナーに位置した客室を見る。フルハイトの全面ガラス張り開口部で都市の活動が手に取るように見える。

ザハがデザインした’ヴィターエ’・バスルームが各客室に使用されている。

ホテル・ロビー階平面図

ホテル客室階・1階平面図

東西断面図

Zaha Hadid / Zaha Hadid Architects
Portrait by Brigitte Lacombe
 
 
Photos by Laurian Ghinitoiu
Drawings by Zaha Hadid Architects
 
Design: Zaha Hadid / Zaha Hadid Architects
設 計:ザハ・ハディド/ザハ・ハディド・アーキテクツ
著者プロフィール

淵上正幸 Masayuki Fuchigami
 
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。