近年集合住宅といえば、すぐさま頭に浮かぶのは高層あるいは超高層のビルだろう。それは世界のメガロポリスにおける高密度な都心に位置しているケースが多いからだ。ところが大都市でも郊外なら、かつてアルド・ロッシが設計したミラノ郊外の「ガララテーゼ集合住宅」のように、低層デザインで非常にユニークな空間が生まれたケースもある。ビヤルケ・インゲルスがデザインした近作も、似たような素晴らしい集合住宅だ。
スウェーデンの首都ストックホルムのガーデット国立公園。その端部に隣接する「79th & パーク集合住宅」は、ヒル・ハウジングとも呼べそうな圧巻のスタイルを誇示している。延床面積25,000㎡の集合住宅は、木製の丘のように見える造形デザインが特徴だ。3.6m x 3.6mのモデュールで構成され、中庭を囲むように配されているのだ。
全戸への日当たりを考慮した建物は、高低差をつけて最も高いところを地上35mに引き上げ、太陽光を最大限に取り入れている。さらにほとんどの住戸から、近隣のガーデット公園やフリハムネン港を眺望できるようにデザインされている。
最大の特徴ともいうべき丘のような外観は、建物が奥に向かってなだらかに高くなっていることによるもので、丘の入り口にあたる正面は一番低いところで7m。木製の丘から公園の敷地へと、緩やかにつながるようなランドスケープ的なデザインが組み込まれている。そのため周囲の自然へとシームレスに溶け込んでいる。
もう一つの特徴は建物の外壁に杉材をまとっていることだ。外観の有機的な表現は、緑の中庭とも連動している。中庭には樹木や草花のエリア、犬のデイケア・センター、幼稚園、多数の自転車ラック(置き場)などが配され、住民と来訪者が出会う場になっている。また種々のアクティビティ空間やアメニティー空間としても活用されている。
中庭に入ると、木造外壁の温もりが充満したアトモスフィアに浸って居心地満点。おそらく今時の集合住宅で、これほどリッチな外部空間を擁しているのは珍しい。もともとインゲルスは手がける作品が多いので、建築タイポロジーのバラエティーも多いのだ。ここでの3.6mのモデュールは、ちょうど日本の2間にあたり、ほどよい寸法でもある。
住戸内のバリエーションも特筆すべき点だろう。全169戸の住戸はほとんどが固有のデザインとなっており、多様性に富んだ年齢・職業の人たちが集う場であることを十分反映している。一方で、共通項としてはスカンジナビア・デザインをベースとし、ホワイト・オークの床を採用。ユニークな木造ディテールをもつ南米モダニズムの肌ざわりを取り入れている。素材に対するこだわりは各所に及び、浴室にはセラミック大理石を使用するほか、キッチンには自然石を取り入れるという豪華さだ。
眺望にも優れ、国立公園の圧巻の景色を大きな窓から一望できるのも魅力である。加えて全ての住戸から、個人と共有のルーフテラスにアクセスでき、緑豊かなランドスケープに浸ることも可能だ。ルーフテラスには様々な樹木が植えられ、北欧の緑をオールシーズン楽しめる配慮。まさに「パーク」と呼ぶにふさわしい自然豊かな集合住宅である。