海口市(はいこうし)は中国最南端の海南島の北端にあり、中国本土に対面した都市。近年同市の社会的重要性が指摘され、街の公共スペースの質を高め、都市・住民・建築間の連繫を強める計画が推進されはじめた。「海口クラウドスケープ」は、そのような計画の端緒となったプロジェクトである。
この建物は、海口観光&文化投資グループによるコミッションで計画された16棟の海浜パビリオンのトップを飾るもので、海沿いに展開されるパブリック・スペースを改良する目的がある。海口シーサイド・パビリオンと呼ばれる新規構想では、国際的に著名な建築家、アーティストおよび学際的なプロフェッショナルに、16件のランドマーク的公共建築の設計を依頼した。
MADがデザインしたパビリオンにはブック・ストアと市民アメニティが含まれている。海口湾岸沿いのセンチュリー・パークに位置する建物は、4,397㎡の敷地に1,380㎡の延床面積を擁している。建物内部の南側には10,000冊の蔵書スペースがある図書館とその閲覧室がある。また無料で一般に解放された多機能視聴覚エリアが収容されている。他方北側には、トイレをはじめシャワー室、休息室、保育室、ルーフ・ガーデンがある。
陸と海の中間で静穏に座すパビリオンは、高度に彫刻的な表情を見せている。自由でオーガニックなフォルムは、ユニークなインテリア・スペースを生み出している。そこでは壁、床、天井は想像できないような融合形態を見せている。さらに内外空間の境界が曖昧となっている。
パビリオンの円形開口部は、野生動物や海の生物によってつくられた穴を想起させ、建築と自然の境界を曖昧にしている。大小様々な開口部は、インテリアに自然光を導入し、海口の一年中暖かい気候にある建物を冷やす自然換気を生み出している。これらの穴越しに、ビジターは時間や空間の推移を通して、あたかも慣れ親しんだ世界を見るかのように、空を仰ぎ見たり海を眺めたりする。
1階と2階をつなぐカスケード状となった海に面する閲覧室は、図書空間だけでなく文化的な交流の場所でもある。子供用の閲覧エリアは、メインの閲覧室から離れたところにあり、そこではトップライト、穴、ニッチなどが子供の探究心を刺激している。
建物の構造的な形態から、いくつかの半外部空間やテラスが生まれ、それらが読書をしたり海を眺めたりする格好のスペースとなっている。ローカルな暑い気候に対応して、建物の外部廊下のグレー空間はキャンティレバーとなり、居心地の良い気温を生み出し、サステイナブルな省エネ建築となっている。
MADはこの建物により、アンチ・マテリアルなアプローチを掲げ、構造や工事の意図的な表現を避け、材料についての日常的な認識を解消し、空間認識そのものがメインの目的となるようにしている。この建物ではコンクリートは、その流れるようなソフトで自在な構造形態で特徴づけられる液状材料と考えられている。
建物の内外はコンクリート打放しとし、ひとつの凝集的フォルムとなっている。屋根と床は2層のワッフル・スラブで、建物のスケールや大きなキャンティレバーを支持。デザインはデジタル・モデルを使用して進められた。その結果機械系、電気系、配管系のエレメントは、見かけを最小にしてコンクリートの隙間に配置し、視覚的な統一性を表現することが可能になった。パビリオンのスムースかつ有機的なオーラは、建築、構造、機械&電気デザインを巧みにインテグレートすることで創造された。