2021.09.02建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第41回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#41)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

MIRA集合住宅(アメリカ、サンフランシスコ)
MIRA Condominium (San Francisco, USA)

見上げるとすごい形相なので怖気つく人も多いと思われる外観。上下の階がずれて配置されており、さらにそのファサードがねじれている。

異様な形相を見せつつ美しい超高層集合住宅

サンフランシスコは物価が高いので有名だが、特に住居の家賃等が高いと聞いたことがある。そうした状況の中、集合住宅デザインの手練れとして名高いスタジオ・ギャングがデザインしたユニーク極まりないコンドミニアム・タワーが完成した。
 
周知のようにスタジオ・ギャングを率いるジーン・ギャングは、数々の従来にない斬新な集合住宅を多数発表し、世界を瞠目させてきた。「MIRA集合住宅」はサンフランシスコ湾近くに位置し、サンフランシスコ・ベイ・ブリッジをはじめとするパノラミックなアーバンスケープを楽しめる好立地にある。これはサンフランシスコでも滅多にない建築的にアイコニックなビルとして話題だ。
 
まず圧倒されるのはその外観である。40階に立ち上がる建物は、躯体をねじりながら上昇していく。ところがこれを地上から見ると、建物がねじれているというより、何かハチャメチャなデザインという形相なのだ。だから目立つこと甚だしい。一見して自分だったら住めないという感じになる。
 
こういうケースはよくある。たとえばオーレ・シェーレンがまだOMAにいた頃、彼がシンガポールの「インターレイス集合住宅」を担当し、これが通りから見るとデコン調の暴れたデザインに見えた。しかしプランで見ると、規則正しい正6角形平面で構成されているのだ。
 
これと同じように、「MIRA集合住宅」も地上から見るとファサードが崩れたように見えるが、例えば近くのビルの屋上から水平方向に見たとすると、海を背景にして美しい。ジーン・ギャングの作品には従来の集合住宅タイポロジーにはない斬新・奇抜・ユニークなものが多いのだ。
 
「MIRA集合住宅」は392戸を擁する超高級マンションで、建物の住戸タイプは1ベッドルーム、2ベッドルーム、3ベッドルームのコンドミニアムをはじめ、タウン・ハウス、パノラマ・コレクションと呼ばれるペントハウスと多彩な構成である。1階には約1,000㎡の店舗が入り、便利この上ない。建物はLEEDのゴールド認定を目指すサステイナブル・デザイン建築でもある。
 
各住戸の延床面積は195㎡から232㎡と広く、天井高も3mから3.7mと高い。要するに空間が大きいのだ。これはウエストコーストの明るい日差しを十分取り込む必要条件であろう。だが例えばペントハウスであるパノラマ・コレクションは、500万ドル(5億5,000万円)もするという、日本人の住居感覚からは想像しにくい価格である。
 
さてそのアメニティーがすごいのだ。著名なバスケットボール・コーチのジェイ・ライトがデザインしたフィットネス・センターをはじめ、スタッフ常勤のロビーやラウンジ、プライベート・ダイニング・ルーム、屋外デッキとバーベキュー・コーナー付きアメニティー・ラウンジ、子供用遊戯室、会議室、ドッグ洗浄ステーション、350台のバレット・パーキングなど圧倒的にゴージャスな設備である。
 
超ハイエンド志向の建物は、サンフランシスコの人気界隈であるエンバルカデロから直近の位置にあり、近隣に多数の交通ポイントを擁した至便の地にある。曰くセールスフォース・トランジット・センターを筆頭に、SFフェリー・サービス、BART、MUNI、バイクシェアなど。サンフランシスコの超豪華マンションの実力をまざまざと見せ付けてくれた作品である。

 
海側方向からの全景。各階が横に少しずつずれているのが分かる。

クローズアップするとずれているものの端正な普通のビルのファサードに見える。

オークランドに通じるサンフランシスコ・ベイ・ブリッジを背景にした「MIRA集合住宅」。この高さから見ると建物は各階が少しずつずれているだけである。

抜群の水景を楽しめる立地にあるため、ガラス面をかなり大きくして、ワイドなパノラマが楽しめるようになっている。

写真下側にみえる岸壁を左方向に行くと、有名なピア39(桟橋)を含む多くのピア群がある人気エリアに通じる。

エントランス・ロビーにある広々としたラウンジ・エリア。

海側に面した住戸から見たサンフランシスコ・ベイ・ブリッジの素晴らしい夜景。

タイプA平面図

タイプT-08平面図

タイプT-12平面図

タイプT-15平面図

■Studio Gang
Jeanne Gang
Portrait: cStudio Gang
 
 
Photos by ©Scott Hargis/ Courtesy of Studio Gang
 
Design: Studio Gang
設 計:スタジオ・ギャング
著者プロフィール
 
淵上正幸 Masayuki Fuchigami
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。