2021.11.03建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第43回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#43)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

アクセル・シュプリンガー(ドイツ、ベルリン)
Axel Springer (Berlin, Germany)

道路越しに見た全景。全面ガラス貼りの外観に穿たれた複雑な開口部デザインが、周囲にある既存の建物群を圧倒する偉容だ。

未来的相貌に秘められた超先端的ディジタル・オフィス

ドイツの大手出版社である「アクセル・シュプリンガー」は、業種形態を印刷からディジタルへと移行するニュースを発表した。ベルリンにある同社のキャンパスに完成した新しい建物は、この移行におけるシンボルかつ手段として機能している。それはドイツにおけるディジタル・エリートたちを魅了している。

建物内部は、旧アクセル・シュプリンガー社の建物に面するダイヤゴナルなアトリウムが建物内部を分断し、一連のテラス状のフロアを生み出している。それらが集合して“ヴァーレイ(谷)“を形成し、建物中心部にインフォーマルなステージを創出。それは同社の内部全域へアイディアを発信する中核的な場所となっている。

レム・コールハースは設計にあたり、「アクセル・シュプリンガー」の業種形態を以下のように分析している。「印刷の特質は、複雑な集合的努力による安く物理的で非常にアクセスしやすい企業形態だが、今までにおいてはディジタルには太刀打ちできなかった。建築事務所も新聞に酷似している。というのは、非常に異なる情報ソースからセレクトし、複雑な集合体を生み出しているからである。

建築家として、私たちOMAはその利点を享受してきた。つまりその迅速性、正確さ、円滑さなどである。逆に私たちはひとつの重要な結果に悩んできた。それは従業員とコンピューターの関係である。つまり全体的な統一感に到達し難い内向的な業務の中で、彼を孤独に追いやってしまうからだ。

喫煙やタイプする記者に独占された従来のニュース編集室では、個々のワーカーは仕事を知っており、同僚の進歩や同時リリースなどの全体的な目的も理解していた。ところがディジタルなオフィスでは、ひたすらコンピューターの画面を見つめていることが、他の人たち全ての集中度を冷ましてしまい、それ故真のイノベーションに必要とされる集団的知性を蝕んでしまう。そのため私たちは共有分析のために、個人の仕事を惜しみなく発信する建築をデザインしてきた」と結んでいる。

「アクセル・シュプリンガー」の新しいオフィス・ブロックは、既存の建物にオープンとなった高さ45mの中央アトリウムをもち、延床面積52,000m2に3,000人を収容するアクセル・シュプリンガー・キャンパスの先端的センターとなった。

建物は中心部に、テラス化されたフロア群が“ディジタル・ヴァーレイ(ディジタルの谷)”を形成するようデザインされた。個々のフロアは、従来のワーク・エンバイロメントを含む天井付きの部分と、テラスとなった天井なしでオープンとなった部分がある。建物の中間にあるディジタル・ヴァーレイは、3次元キャノピーを生み出すためにミラーを張り巡らされている。

相互にコネクトしたテラス群によって形成されたコモン・スペースは、建物のコアとなる部分にある本格的なオフィス・スペースに匹敵する代替スペースを提供している。それは新しいワーク・スペースの予期せぬ増築を視野に収めたものであり、ディジタルの未来における全ての疑問に対処するようになっている。 

一般の人々は「アクセル・シュプリンガー」の建物を、3層に渡って体験することができる。すなわち1階のロービー、上階のミーティング・ブリッジ、およびルーフトップ・バーだ。ミーティング・ブリッジは、来客が建物内部を見晴らすことができる場所で、そこからはこの会社の動きや、それがどう展開していくかが見学できる。1階にはスタジオ群、イベントや展示スペース、キャンティーン&レストランがある。

建物はツィンマー通りに面する既存の「アクセル・シュプリンガー本部」の向かいにある。この通りはかつて東ドイツと西ドイツを分けていた通りであり、チェックポイント・チャーリーに通じている。
俯瞰した全景。左手に「アクセル・シュプリンガー」の高層等が見える。揺るぎなき強かな外観は、「アクセル・シュプリンガー」の存在そのものを誇示している。

シャープな3角形に切り開かれた開口部の形態が、「アクセル・シュプリンガー」のイメージ・フォルムとも言えそうだ。

古典的な建物と軒を連ねる新しい「アクセル・シュプリンガー」は、未来から来たような佇まい。俯瞰した建物。

ブリッジのように空中に浮いた屋根付きのスペースには、従来のワーク・エンバイロメントを含むオフィスが収納されている。

段状にせり出したテラス・タイプのオフィスがディジタル・ヴァーレイ(ディジタルの谷)を形成している。

高さ45mもある中央アトリウムの大空間を見渡す。自然光に満ち溢れた空間は外部に匹敵する開放感がある。複雑な種々のオフィス空間は13のブリッジで接続されている。

テラス・タイプのオフィスは、大きな開口部からのほどよい自然光に包まれて快適そのものだ。

コンセプト図


平面図

ダイアグラム


コンセプト・モデル

Rem Koolhaas (Portrait by Charlie Koolhaas)/ OMA
Chris van Duijn (Portrait by Fred Ernst)/ OMA

https://www.oma.com/

Photos 1-7 by Laurian Ghinitoiu/Photo 8 by OMA
Concept, Plans, Diagrams by OMA

Design: Rem Koolhaas & Chris van Duijn (OMA) 
設 計:レム・コールハース&クリス・ヴァン・ドゥイン(OMA)
著者プロフィール
 
淵上正幸 Masayuki Fuchigami
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。