2021.12.03建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第44回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#44)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

ズロタ44(ポーランド、ワルシャワ)
Zlota44(Warsaw, Poland)

ポーランドの首都ワルシャワの都市中心部を見る。右手の歴史的建物は「スターリン文化パレス」で、それに対面する左側の建物が「ズロタ44」。

ワルシャワのスカイラインに君臨する超高層タワー

ダニエル・リベスキンドといえば、ニューヨークのグラウンド・ゼロのマスタープラン・コンペに優勝した建築家として知られている現代世界建築の巨匠である。彼の祖国ポーランドの首都ワルシャワに、アイコニックな建築「ズロタ44」をデザインし話題となっている。

建物はワルシャワ中心部にある「スターリン文化パレス」の真向かいに立ち、高さ192m/52階建ての威容を見せている。鷲の翼からインスパイアーされたカーブを描き、ワルシャワのスカイラインに君臨している。延床面積約30,000㎡のタワーは、1ベッドルーム〜3ベッドルームのアパートメント287戸とペントハウスを擁し、ビジネス&レジャーのコンシエルジュ・サービスやパーキング施設も完備している。

建物のシンボリックな形態は、太陽の軌跡に従って全階の住戸に最大量の日射を導入し、高密度化された歴史的な都市組織におけるストリートに落ちる影を、最小にするように考案されたものである。アーチ状のファサードは頂点に至り、都市のスペクタッキュラーなパノラミック・ビューを満喫できる多層のペントハウスを形成している。ガラスとアルミニウムのカーテンウォールはセルフ・クリーニング・パネルでできており、フルハイトの3重ガラス窓はイレギュラーなパターンで配置されているため、光と影の戯れを外壁上に誘発している。

リベスキンドは言っている。「私にとって『ズロタ44』は非常に個人的なプロジェクトである。私は若き日、共産主義の圧迫から逃れてポーランドを去ったが、自分は故国の精神や文化を決して忘れることはなかった。今日故国に戻ってきたが、このシンボリックな建物の竣工にあたり、感無量です。」

リベスキンドがデザインしたロビーは、温和な木材料、ガラス器具、幾何学的なセラミック・タイルのフロアリング等で構成され、外壁を覆うフルハイトの開口部からの自然光で明るい。カスタム・メイドの受付デスクや壁面パネルはウォルナット合板で出来ている。高さ6mの天井からは繊細なガラス・シャンデリアが吊るされている。リベスキンドの手によるモローゾの家具は、豪華なエントランス・ホールに、彫刻的かつウエルカム・ムードのコンポジションを与えている。

リベスキンドのデザインが生み出したユニークな住戸は、多種に渡るフロア・プランとサイズが展開されている。標準的なアパートメントは、60㎡から300㎡にわたり、ペントハウスやフル・フロア住戸は930㎡もある豪華さだ。全てのアパートメントにはフルハイトの開口部付きの広いリビングがあり、明るい風通しの良い環境となっている。

キッチンやダイニング・ルームはオープンプランでカスタム仕様となり、インテグレートされた器具類やブレックファースト・バーなども設えている。仕上げデザインも多様なオプションが用意されている。RC打ち放しの天井やコラム類、シーザーストーンのキッチントップ、ステンドオークまたはアメリカン・ウォールナットのフロアリングなどがある。またガゲナウのキッチン設備や、スマホやタブレットでコントロール可能な最新のホーム・マネージメント・システムを装備している。

約1,800㎡のアメニティ・フロアにはワールド・クラスのスポーツ&レクリエーション施設やスパがあり、また25mの水泳プールを設えている。1階には10,000本のワイン・ボトルを収容できるワイン・ストーレッジがあり、テイスティング・ルームも装備している。タワー下部には9階のパーキング場があり、ストリートレベルからのアクセスが可能である。さらに大型のラグジュアリー・カーを収容するスペースも充分取られている。フルタイムのスタッフによるコンシエルジュ・サービスも万全である。   

見上げると鷲の翼からインスパイアーされた大きなカーブを描いている外観が特徴だ。

高さ192m/52階建ての建物は、ストリートに落ちる影を最小にするためにカーブが付けられたという。

夜景に浮かび上がる「ズロタ44」と「スターリン文化パレス」は、好一対を成す都市景観を演出している。

「ズロタ44」の正面ファサードの水平的な窓割りデザインに対し、背面はランダムな縦割りデザインとなっている。

夜景で向き合う「スターリン文化パレス」と「ズロタ44」は、互いにトークをしているような風情にも見える。

頂上付近の側面クローズアップ。

角部屋のインテリア。フルハイトの開口部から自然光や市街の景色が流れ込んでくる。

リベスキンドによるコンセプト・スケッチ


Daniel Libeskind/ Studio Libeskind
Portrait by Ilan Besor

https://libeskind.com/



Photos 1, 2, 3, 5, 8 by Hufton+Crow/ Photos 4, 6 by Kruba Jurskowski/ Photo 7 by Tomasz Reich
Concept sketch by Studio Libeskind
 
 
 
Design: Daniel Libeskind
設 計:ダニエル・リベスキン


 
著者プロフィール
 
淵上正幸 Masayuki Fuchigami
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。