2022.01.04建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第45回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#45)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

ランタン・ハウス(アメリカ、ニューヨーク)
Lantern House (New York, USA)

南東側から見た全景。右手先に見えるのがハドソンヤードの超高層ビル。左手にハドソン川が見える。建物はハイライン公園で2棟に分断されている。

歴史的なベイ・ウィンドウが醸す温もりのある表情

ヘザウィック・スタジオは、2015年にマンハッタンのチェルシー地区にあるハイライン公園近くの西ストリート18番地に、新しい集合住宅ビルをデザインするプロジェクトを受注した。ハイライン公園沿いに、雨後の筍のように立ち上がってきた新しいガラス張りのアパートメント・ブロックとは違って、新しいタイプの集合住宅、すなわちかつてこのエリアにあった歴史的な建物を想起させる集合住宅を目指した。

ヘザウィック・スタジオは、温もりのあるベイ・ウィンドウ(出窓)のアイディア、要するに後期ヴィクトリアン&エドワーディアン時代のビルに散見されたディテールを援用したのである。この歴史的なモチーフにより、ダブル・ハイトの積層化されたベイ・ウィンドウを開発した。この3次元的な窓により、コーナー・コラムをなくし、光に満ち溢れた部屋から素晴らしい景観を楽しめるようになった。

プレーンな窓ガラス、垂直的なメタル・マリオンやレンガなどのファサードにより、チェルシーの豊富な工業的な遺産からの材料を、創造的な手法でまとめている。また特殊なレンガを開発し、ユニークな古趣の雰囲気を醸している。さらにレンガによる丸みを帯びたエッジや、ブリック・ソフィット(軒裏)といったディテールを生み出した。強い材料で生み出されたアパートメントは、頑強でしっかりした造りの印象を与えている。

敷地はハイライン公園で2分されているため、建物は2つのタワーとなったが、記憶に残る共通のエントランスがデザインされている。ロビーは東西に緩やかに延び、特徴あるランタンのような開口部によって覆われている。1階レベルでは、店舗スペースはニューヨーク的な巨大なガラス窓を避けている。代わりに出窓群がコーナー部を覆い、小さな店舗に分割可能なヒューマン・スケールとなっている。

「ランタン・ハウス」は181戸のラグジュアリーなレジデンスを内包している。建物名の由来は、近代のベイ・ウィンドウを、ヘザウィックが試みた現代的な解釈によっている。この開発は、ヘザウィックがニューヨークに建てた他の作品である「ヴェッセル」や「ピア 55」が存在するニューヨークの西側にある。そのためこれらの作品群によって、ハドソン川沿いの極西部に“スカルプチュラル・コーリダー(造形回廊)“が形成することが期待されている。

ヘザウィック・スタジオのデザインは近隣にある川沿いの倉庫群に対応したもので、グレイのレンガ作品に、工業的な金属のディテールを施している。10階建てと21階建て建物は、高架のハイライン公園の下側にある造形的なロビーによって繋がれている。他方、ベイ・ウィンドウは自然光や景色を最大限取り入れるのみならず、建物に特徴あるキャラクターを付加している。窓際のソファからは、ハドソン川をはじめシティ・スカイライン、さらにその先への眺望を満喫できる。

「ランタン・ハウス」は、ヘザウィック・スタジオのニューヨークにおける初の集合住宅作品である。ヘザウィックによると、デザインは既存の街並みを見ることと、また人々がどのような建物に住みたいかを考えることから始まったという。窓枠、マリオンや影のような、実際的、クラフト的、ヒューマン・スケールのディテールが、家を居心地良く魅力あるものにするのに重要な役割を演じることがわかったという。

建物には1ベッドルームから4ベッドルームをもつ181戸のコンドミニアムがあり、そのほとんどが、セットバックしたテラス付きだという。2020年に完成した建物には、レジャーや健康志向のコミュニティー・アメニティーが装備されている。

21階建ての高層棟を見る。湾曲したベイ・ウィンドウ(出窓)が建物に温かみのあるユニークな印象を与えている。

2棟間にあるハイライン公園の下側にエントランスがある。

ひとつのエントランスから左右の高層棟と低層棟につながっている。

エントランスの正面入口から見る。内部の受付カウンターもベイ・ウィンドウのようなカーブしたデザインだ。

エントランス・ロビー内部を見る。ロビーの背後には植栽が施され、上部のハイライン公園に呼応したデザインとしている。

テラスからエンパイア・ステート・ビルが立つ西側方向を見る。豪華なセッティングのテラスは、居心地のよいナイト・タイムを演出する。

角部屋のリビング・ダイニング。ここからはパノラミックな都市景観を見晴らせる。

高層棟の上階からはハドソン川が手に取るように見える。

湾曲したベイ・ウィンドウのため、景色を広角度に捉えることができる。



Thomas Heatherwick/ Heatherwick Studio
Portrait by Earl Wan

Photos: Courtesy of Related Companies

 
 
Design: Thomas Heatherwick
設 計:トーマス・ヘザウィック


 
著者プロフィール
 
淵上正幸 Masayuki Fuchigami
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。