2022.02.01建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第46回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#46)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

インフィニタス・プラザ(中国、白雲市)
Infinitus Plaza (Baiyun, China)

夕日を背景にして巨体を見せる「インフィニタス・プラザ」。二つの建物が、社名(インフィニタス=無限)が意味するマーク(∞)に近いデザインとなっている。

無限マーク(∞)を暗示したプランの巨大建築

「インフィ二タス・プラザ」はインフィニタス・チャイナの新しい世界本部である。創造性、結合性、企業家精神を育むワーク・エンバイロメントを有する新しい本部は、またハーブ薬研究施設やセイフティ・アセスメント・ラボや、会議や展示のラーニング・センターも併設している。

約19万㎡の広さをもつ「インフィニタス・プラザ」は、中国白雲市中心部へのゲートウェイの一角を占めている。廃止された白雲市空港の跡地に建設された新しいビジネス・センターは、広州市中心部にリンクしている。「インフィニタス・プラザ」は半地下となった地下鉄線をまたいでいるため二分されているが、多層にわたるブリッジで連結されている。

無限のシンボルである“∞“マークを反映した中央トリウムと中庭の周囲に配置したデザインは、インフィニタスの企業文化を構成する強いコミュニティ意識を、種々の内外空間を構成することによって創造している。

2棟間を接続するブリッジは、従業員のためのフレキシブルなコミュニティ・スペースがあり、彼らの健康を助長し、その他にもエクササイズ・ルーム、リクリエーション&リラクゼーション・ゾーンをはじめ、レストランやカフェがある。ブリッジ群はオフィスを、さらにショッピングやダイニング・エリアに接続させている。

広州市の高湿度な亜熱帯モンスーン気候に位置する「インフィニタス・プラザ」はダイヤモンド・パターンのアルミ・パネルをまとい、LEEDゴールドの認証を受けたサステイナブル・デザインで、それは中国のグリーン・ビル・プログラムの三つ星に匹敵する。

建物の最適化をすることで、所定のコンクリート使用量を軽減することができ、逆にリサイクル建材が増加した。約25,000トンのリサイクル建材が「インフィニタス・プラザ」の建設に採用され、その内訳は、鉄、銅、ガラス、アルミ合金、石膏プロダクツ、木などとなっている。

この地域の年間太陽照射分析によって、建物の日影をつくるアウトドア・テラスの幅が決定された。この分析はまた、ソーラー・ヒート・ゲインの減衰を最適化するために、外壁の穴空きアルミ日影パネルの数をも限定している。この方法はロー・アイアン複層ガラスと相まって、効率的に日影と太陽熱遮断をし、それにより建物全域に良質な自然光を導入し、他方ソーラー・ヒート・ゲインとエネルギー消費を減じている。

太陽光発電によって稼働するスマート・マネージメント・システムにより、雨水利用のスプリンクラーのスプレイを個々のアトリウム上部のETFE膜に吹き付け、気化熱により冷却している。半透明ETFE膜の屋根は複層のため、60cm幅の中間部に圧縮空気を流している。

太陽熱で膜面が35度を超えると30分毎に3〜4分間のスプレイが吹き付けられ、膜面が14度下がると内部温度は5度ほど下がる。また屋上の太陽熱温水暖房により、省エネが推進されている。

また貯水された雨水をフィルターにかけ、再利用して近隣のランドスケープに灌漑している。3階、7階、8階のガーデンには同地の薬草や植物が植栽されているが、これらは雨による自然灌漑によっている。これらのアウトドア・コミュニティ・エリアは、共に屋上にあるジョギング・コースや散歩道に通じている。グリーン・ルーフは、トータルな屋上面積の約半分に及んでいる。

中国の健康福祉産業の国立センターとして、広州市の白雲中央ビジネス地区に根を降ろしたインフィニタス・チャイナの新しい本社は、イノヴェイティブなデザインと施工技術を擁し、持ち前のサステイナブル戦略で全ての部門を統合し、グループ全体のコミュニケーションを高める斬新なワーク・エンバイロメントを創造している。

2棟ともグリーン・ルーフになっているが、黒い穴は吹抜けの大空間。白いテントが覆った部分はインドアの吹抜け大空間。

日本では見ることができない大胆な造形デザインである。

アルミ・パネルの外壁は部分的にダイヤモンド・パターンになっている。

アルミ・ダイヤモンド・パターンの外壁詳細。ひとつのダイヤモンド(平行四辺形)の中に亀裂があり風を通す。

外壁と内部のメイン空間との間には、大きな空間が取られており、厳しい暑さを防ぐサステイナブル・デザイン。

上部がETFEのテント構造になった吹抜け空間。夏季の暑い時はテントの上部にスプリンクラーでスプレイを吹き付ける。

ETFEのテントがない外部空間の吹抜けを見上げる。

配置図

1階平面図

2階平面図


8階平面図


Patrik Shumacher/ Zaha Hadid Architects
Portrait: Courtesy of Zaha Hadid Architects

Photos 1, 3, 4, 5, 6, 7 by Liang Xue
Photos 2 and 8: Courtesy of Zaha Hadid Architects



Design: Zaha Hadid Architects
設 計:ザハ・ハディド・アーキテクツ
著者プロフィール
 
淵上正幸 Masayuki Fuchigami
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。