2022.03.05建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第47回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#47)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

コフコ文化&健康センター(中国、上海)
Cofco Cultural and Health Center (Shanghai, China)

上海の浦南運河沿いのグリーン・ランドスケープの中に、「コフコ文化&健康センター」はある。大きいほうが「文化センター」で、小さいほうが「健康センター」だ。

地域コミュニテイに貢献するサステイナブル建築

「コフコ文化&健康センター」は健康的な生活と文化交流を促進させるために、近隣の大きな住宅コミュニティにグリーンのパブリック・スペースを提供する使命をもっている。敷地面積約7,500㎡に位置する建物は、社会的な“コンデンサー“となることを目指しており、上海の浦南運河沿いの周辺住宅地域に対し、近隣コミュニティから待ち焦がれているパブリック・スペースやランドスケープを提供する。

浦南運河は、上海の南側にある杭州湾から北側の内陸に10kmほど入ったところを、東西に長く延びる運河。この運河沿いに位置する「コフコ文化&健康センター」の近隣には、大きなハウジング・ブロックが広範囲にわたって展開している。

建築デザインは同じような繰り返しのデザインである一方、建物は空間エネルギーに満ち、開放性に富み、全コミュニティの住人をレクリエーションや文化的プログラムへと誘っている。健康願望に励む人たちは、全体の中核施設であるヘルス・センターに足しげく通っている。

スティーヴン・ホール・アーキテクツのポスト・コロナ建築戦略に沿って、建物はグリーン・スペースを取り込み、新鮮な空気と自然光を最大にし、オープンなサーキュレーションと広い公共スペースを特徴にしている。

ランドスケープとふたつの新しい建物が、哲学者カール・ポッパーの有名な1965年のレクチャー、“Clocks and Clouds”(時計と雲)のコンセプトにより導入された。ランドスケープは時計のような大きな円形となり、中心とのなるパブリック・スペースを構成し、建物は雲のようなユニークな形態をした開口部と開放性を有している。

薄いグレー色のコンクリートでできた延床面積約6,500㎡の「文化センター」は、1階のガラス張り透明空間にカフェ、ゲーム&レクリエーション・ルームを擁している。2階へ向けて徐々に上昇していくカーブしたスロープを歩いていくと、見下ろし風景の連続的な変化が楽しめる。

同じような薄いグレーのコンクリートをまとっている延床面積約1,500㎡の「健康センター」は、中心部にあるランドスケープ・スペースによって建物形態が形成されており、雲のような部分とランドスケープ全体との緊密な関係を助長している。ふたつの建物は共にグリーン・ルーフをもち、上部から俯瞰したり、近隣のアパートメント・ビルから見ると、緑のランドスケープ・スペースに溶け込んだように見える。

2021年に完成した「コフコ文化&健康センター」は、主なサステイナブル・デザインとして、最大限のグリーンやオープン・スペースを擁し、リサイクル材料を全体の30%使用している。またセントラル冷暖房システムを採用、CO₂モニタリング、蓄熱システム、生活排水&雨水のリサイクルなどをしている。ヘルシーな生活と文化交流を促進する建物は、大きな近隣住宅コミュニティに対し、グリーン・パブリック・スペースを提供するなど、多くの地域貢献をしている。

敷地を真上から俯瞰する。円形にランドスケープされた広場の両側にふたつの建物はあり、右手の「文化センター」には外部空間が切り込まれているのが分かる。

夕景に沈みゆく「文化センター」。外壁に雲のような形の開口部が自在に穿たれている。

「文化センター」のコーナー部を見る。外壁が傾き、自由な形態の開口部やテラスが彫り込まれている。

外部空間が切り込まれた部分の外壁。

外部空間が切り込まれた奥には円筒形の空間ができており、そのガラス壁面には外部階段が配備されている。

自由な形の開口部がある階段室。窓越しに運河と対岸のグリーンが見える。

夜景の「コフコ文化&健康センター」。手前の「健康センター」からは、四角い窓からの光がこぼれ、大きな「文化センター」からは自在な形の開口部からの光が流れでている。


文化センター1階平面図


文化センター2階平面図


文化センター断面図



健康センター1階平面図、健康センター断面図



スティーヴン・ホールのスケッチ



Steven Holl/ Steven Holl Architects
Portrait: Courtesy of Steven Holl Architects

Photos: ©Aogvision



Design: Steven Holl Architects
設計:スティーヴン・ホール・アーキテクツ
著者プロフィール
 
淵上正幸 Masayuki Fuchigami
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。