2022.05.02建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第49回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#49)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

台北パフォーミング・アーツ・センター(台湾、台北)
Taipei Performing Arts Center (Taipei, Taiwan)

台北随一の繁華街、士林夜市のストリートに顔を出した建物は、その猥雑な界隈性を超越するかのような奇抜な出で立ちだ。

東京から台湾まではわずか4時間のフライト。また著名日本人建築家の作品が多い。特に伊東豊雄の作品が多い。その上食事が美味しいので、建築フリークにとって当然一度は行っている人が多い。そこに世界的に知られた建築家レム・コールハース(OMA)設計の「台北パフォーミング・アーツ・センター」が完成したから大変だ。
  
「台北パフォーミング・アーツ・センター」はかなり前から話題であった。というのは、レム・コールハースのネーム・ヴァリューもさることながら、建物形態がユニーク極まりないからだ。
台北の有名な士林夜市のストリートに顔を出した建物は、巨大な半球形が突出したアイ・キャッチングな佇まい。

建築デザインの深奥を極めたコールハースならではでのポイントは、この半球を外壁にデザインしたことだ。半球を屋根や屋上にあしらったデザインは世界中に多数あるが、外壁に使用した例は少ない。この場合彼はデザインのために外壁に付けたのではなく、内部機能からの必然的な形態なのだ。すなわちフランク・ロイド・ライトの師ルイス・サリヴァンがいうアフォリズム「Form Follows Function」(形態は機能に従う)とおりなのだ。

「台北パフォーミング・アーツ・センター」は希有でありながらフレキシブルであり、特異でありながらパブリックであり、アイコニックでありながらその意図では計画されなかったという、宙ぶらりんの建築である。中央にあるガラス張りのキューブに差し込まれた3つのシアターが、パフォーミング・スペースを連結させたりすることで新しい演劇空間の可能性を追求した逸品である。

中央部のキューブ建築は1階をパブリック・ループとして開放し、台北のストリート・ライフを敷地内に導入している。新しい内部空間の可能性やシアター同士のコネクションが、プロデューサー・観客・一般人の異なる関係を生み出し、更に新しいインテリジェントなイコンとして機能するクリティカル・マスをうみだしている。

中央のキューブは3つのシアターのステージ、バック・ステージ、サポート・スペース、および観客のパブリック・スペースを統合し、ひとつの効果的な全体を生み出す。シアター群は互いに変形し、融合して予期せぬシナリオや利用法を生み出す。インナー・シェルとアウター・シェルをもつ800席の半球形プレイ・ハウスは、キューブにドッキングしたプラネット(惑星)に似ている。インナー・シェルとキューブの交差により、実験的でユニークはプロセニアムを形成する。シェル間のスペースは来館者をオーディトリアムへ運ぶサーキュレーション・スペースとなっている。

1,500席のグランド・シアターはわずかにアンシンメトリーな形態で、標準的なシューボックス形式だ。ここでは種々のパフォーミング・アートを演じることができる。グランド・シアターの反対側には840席のブルー・ボックスがあり、ここでは最も実験的なパフォーマンスを上演することができる。このふたつのシアターを連結することで、プロダクションも入るスーパー・シアターという巨大空間ができる。ここではシアターの構成やステージ・セティングの新しい可能性が、想像もできない自発的な形で実現できる。

来館者は入場券のあるなしにかかわらず、建物のインフラストラクチャー内やプロダクション・スペース内を走るパブリック・ループを通じて館内に入ることができる。パブリック・ループの窓から、入場者は上演中のパフォーマンスを見学し、シアター間にあるテクニカル・スペースをも見ることができる。

表側と裏側がある普通の典型的なパフォーミング・アーツ・センターと違って、「台北パフォーミング・アーツ・センター」は各シアターが各外壁に突出しているため、多面的な顔をもっている。オパーク色のファサードをもつこれらのシアターは、照明されて活気ある波形ガラス張りのキューブに対し、ミステリアスな様相を呈している。半球形プレイ・ハウスの下にあるランドスケープされたプラザは、台北の最も賑わう活気に満ちた場所にある市民が集うステージとなっている。

メインとなる中央のガラス張りのキューブに半球形プレイ・ハウスが取り付いて圧巻の存在感。まさに李祖原設計の「台北101」と同様、その存在は台北のランドマークとなった。右側に出ているのはブルー・ボックスと呼ばれるシアターだ。


半球形プレイ・ハウスの左側にはグランド・シアターが突出している。


夜景の「台北パフォーミング・アーツ・センター」は中心にあるガラス張りのキューブのみが照明されて明るく輝いている。


1,500席のグランド・シアターには道路に面して横長の開口部がある。 キューブの開口部は大きくうねる波形ガラスが全面に使用されている。


広いエントランス・ホール。


半球形プレイ・ハウスの内部。通常のシアター空間とは違う半球形で包み込まれるようなアトモスフィアは心地よい安堵感に満ちている。


グランド・シアターには1,500席があり、このシアターの手前側にはブルー・ボックスが対峙しており、両者をつなぐと巨大なスーパー・シアターになる。


ブルー・ボックスの内部。


最上階のパブリック・ループ。巨大なビームが飛ぶダイナミックな空間だが、開口部は波形ガラスのため、景色は歪んで見える。


半球形プレイ・ハウス断面パース



スーパー・シアター断面パース




ダイアグラム・コンセプト1 ダイアグラム・コンセプト2
ロビー・サーキュレーション図

パブリック・ループ図


コンセプト・モデル



Rem Koolhaas(right) and David Gianotten (OMA) 
Portrait by Fred Ernst

Photos: ©OMA by Chris Stowers
Diagram by OMA



Design: Rem Koolhaas and David Gianotten (OMA) 
設 計:レム・コールハース & デイヴィッド・ジャノッテン (OMA)





著者プロフィール
 
淵上正幸 Masayuki Fuchigami
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。