2022.06.03建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第50回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#50)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

ヤブリ企業家会議センター(中国、ハルピン)
Yabuli Entrepreneurs’ Congress Center( Harbin, China)

正面側から見た全景。うねる稜線をもつ屋根形は、遠方にある雪を頂く山々の形状にインスパイアーされたデザイン。

●雪山に溶融する白亜のルーフ建築
MADアーキテクツが設計した「ヤブリ企業家会議センター」が中国のハルピンに完成した。ヤブリには中国最大の「スノー・トレーニング・センター」と、アジアでは最長のアルペン・スキー・スロープがあることで知られているスキーのメッカだ。

延床面積16,000㎡の建物には巨大なエントランス・ロビーの他に、図書館、展示ホール、20室以上の多機能ルームがある。建物は中国企業家フォーラム(CEF)と中国企業家ミュージアムの年間イベントを開催するために建設された。またセンターでは企業家と企業のために教育プログラムを立ち上げており、そのために大きな会議、展示、企業トレーニング・プログラムなどを開催し、はてはシンクタンクも併設された。

MADアーキテクツは「ヤブリ企業家会議センター」を、近隣の景観や地形に溶け込むようにデザインしている。遠くから見ると、山の上から徐々に下って雪の中に消えていく巨大な白いテントのように見える。うねる稜線をもつ屋根形は、遠方にある雪を頂く山々の形状にインスパイアーされたという。他方白いアルミニウム・パネルがもつ有機的かつ生物的テクスチャーは、新雪がもつ肌合いに似ている。

インテリアのレイアウトやサーキュレーションは、丘のスロープに従って変化する建物の高低差に合わせて決定された。メイン・エントランスは1階の東側にあり、通用口は2階西側にある。人々は雪の中で丘を登っていくと、建物が両手を広げて迎えてくれるようなゼスチャーを感じることができる。カーブした屋根の先端部分は20mものキャンティレバーとなっており、荒れた天候時には登山者たちのシェルターとなる。

フルハイトのガラス・カーテンウォールが建物の東西面をフレーミングし、他方南北面はサンクン・ガーデンのランドスケープに溶け込んでいる。全ての設備系施設は見えないようにデザインされており、他方ルーバー付きの開口部はサンクン・ガーデンにセットされ、カーブしたファサードとインテリア・ウォールの視覚的な連続性を可能にしている。

中央にあるスカイライトから導入される太陽光が、建物の中央軸上で堂々たる存在を示す木質のロビー空間に流れ込む。またその他の自然光の導入に関するデザインも施され、内部で起きるダイナミックな活動を照射している。他方半透明のETFEがカーテンウォールとして採用され、インテリア全域に光を拡散させている。ロビー空間は4㎜の微小穴をもつ木張リの音響デザイン用の内壁をもち、随時パフォーマンス・スペースとして使用されている。

メインとなる会議ホールは柱のない大空間のため、1,000人も収容できる大きさとなっている。LEDスクリーンのある350席のオーディトリアムは、オープンとなり周辺の山々を背景として取り込むことができる。フルハイトのガラス開口部はドラマティックな透明空間を生み出すばかりではなく、内外部空間をミックスさせ、ピュアな純白の雪景色と温かみのある木造インテリア空間を一体化させる。昼間、建物は雪を頂いた地表のランド・アートとなり、夜間は温もりのある照明が、キャンプでのテント脇の焚き火のように建物を明るくする。

ヤブリの雪を頂く山々の上には美しい星空が展開する。それは無限の宇宙へと広がり輝くブルーの絨毯のようだ。焚き火とテントは、漆黒の闇の中で真実と知識を追求し、より大きな未知を探求する人間精神を反映した二つのエレメントとして、デザイン・インスピレーションの形成に役立ったという。「ヤブリ企業家会議センター」は、後継者たちの進むべき道をガイドする精神的遺産としてのフィジカルなサイトとなっている。

白いアルミニウム・パネルがもつ有機的かつ生物的テクスチャーは、新雪がもつ肌合いに似ている。

一見雪が積もったように見える屋根は、白いアルミニウムを使用して雪に同化したような効果を狙ったデザイン。

夜間遠景で見ると、建物は羽を広げた蝶や蛾のように見える。中央の赤みがかった部分はトップライト。

ヤブリの雪を頂く山々の上に星が降るような美しいブルーの絨毯が広がる。

正面と反対側2階レベルの開口部夜景。内部は2階ロビーとなっている。

1階レベルの大きなロビー。ロビー空間は4㎜の微小穴をもつ木張リの音響デザイン用の内壁をもち、随時パフォーマンス・スペースとして使用されている。

350席のオーディトリアムの内部

1階平面図



2階平面図

断面図


スケッチ



MAD Architects
Portrait by MAD Architects
(From left to right: MA Yansong, Dang Qun, Yosuke HAYANO)

http://www.i-mad.com/


Photos 1, 2, 3, by CreatAR Images/ Photo 4, 6, 7, 8 by ArchExist/ Photos 5 by Blackstation
Drawings by MAD Architects


Design: MAD Architects(Ma Yansong, Dang Qun, Yosuke Hayano)
設 計:MAD アーキテクツ(マ・ヤンソン、ダン・チュン、早野洋介)




著者プロフィール
 
淵上正幸 Masayuki Fuchigami
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。