2022.09.06建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第53回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#53)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

Nefertiti Hotel Tower (Changsha, China)
ネフェルティティ・ホテル・タワー(中国、長沙市)

北側からみたタワー部分の全景。楕円形のベースをもつ高さ100mのタワーは、頂部から底部へ流れるようなエレガントなシリンダー形の躯体となっている。

中国湖南省の長沙市は同省の首都で、同地の商業、産業、輸送および技術革新において重要なポジションを占めている。コープ・ヒンメルブラウがデザインしたアイコニックな高さ100mのラグジュアリーなホテル・タワーは、長沙市の南西部にある広大なダワンシャン地域における重要なランドマークかつオリエンテーション・ポイントになっている。ホテルのゲストは、世界で一番大きなインドア・スキー・スロープのひとつであるスノー・ワールド、ディープ・ピット・アイスをはじめ、高さ60mの滝をもつウォーター・パークなどを楽しむことができる。

ホテル・タワーは、プラザを介してスノー・ワールドに接続する大きな彫刻のように見える。タワーは楕円形のベースをもち、頂部から底部へ流れるようなエレガントなシリンダー形の躯体となっている。これは古代エジプトの女王であったネフェルティティの胴体を3Dスタディで分析し、それがインスピレーションになり、このアイコニックな形の実現に用いられている。

タワーのファサード・テクスチャーはあたかもシルクのような表情を呈し、先端的なサン・シェードや自然換気を可能にする高度なエネルギー効率システムを採用している。エレメント・ファサード・システムにより、インテリア・レイアウトにおいては最大のフレキシビリティが可能となり、外部は一様な表情をもつ印象を呈している。

彫刻的な「ネフェルティティ・ホテル・タワー」には295室の客室とスィートがある。デラックス・ルームは36㎡の広さがあり、他方プレジデンシャル・スイーツは255㎡もある広さ。またホテルには2ベッド・ルームのエグゼキュティブ・スイーツがある。フレンチ・ウィンドウからは、ダワンシャン、シャワン川、八渓州島を含む印象的な180度のランドスケープを楽しむことができる。

ホテルへのメイン・エントランスは、タワーの東側にある。その他の物品の搬入搬出口や地下駐車場へのアクセスは通渓大道に面している。特別なVIPエントランスは北側にあり、スムースなサーキュレーションが保証されている。コア部分の周囲に展開する広い中央ロビーには、バーやレストランがあるサービス・エリアが1階レベルに、フィットネス、スパ、美容施設は3階に配置されている。

地下レベルには210車のパーキング・スペース、積載エリア、機械設備スペースがある。ふたつに分かれたコアは、タワーと基壇へのアクセス・ポイントとして機能し、明快かつ容易なサーキュレーションを可能にしている。タワーのコア部分には6基のエレベーターがあり、待ち時間を少なくするシステムが採用されている。他方高層階での効率を考慮したタワー全体のデザインが実現されている。

ほとんど高層ビルのない地平にそそり立つ「ネフェルティティ・ホテル・タワー」は、長沙市の南西部の広大なダワンシャン地域における重要なランドマークかつオリエンテーション・ポイントだ。

エントランス・ポーチを覆う庇は、大蛇がうねるようなダイナミズムをはらんだデザインで来訪者を驚愕させている。

タワー前面には大きなウォーター・パークが展開している。

建物を俯瞰すると、タワーの側面を長沙市からの国道が走っており、郊外に位置するものの至便の地域にあることが分かる。

夕景に沈みゆくホテル。高層棟と低層棟が有機的に連続して、相和した一体になっているのは素晴らしい。

夕映えの空と同じ爽やかなブルーに染まった「ネフェルティティ・ホテル・タワー」は上品な佇まい。

VIPロビーにあるスパイラル・ステアーは、かつてコープ・ヒンメルブラウがデザインした「BMWヴェルト」を想起させるデザインだ。

1階平面図

高層基準階平面図

南北断面図

高層棟断面図





Design: Coop Himmelblau
設 計:コープ・ヒンメルブラウ

Wolf D. Prix/ Coop Himmelblau
Portrait by Zwefo
https://coop-himmelblau.at/

Photos : © Xia Zhi
Drawings : Coop Himmelblau




著者プロフィール
 
淵上正幸 Masayuki Fuchigami
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。