2022.11.15建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第55回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#55)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

The National Museum of Qatar (Doha, Qatar)
カタール国立博物館(カタール、ドーハ)

夥しいほどの錯綜するディスク(円盤)が広場を取り囲んでいる。中央左側にあるのが歴史的な王宮である。

アトリエ・ジャン・ヌーヴェルによってデザインされた「カタール国立博物館」(NMoQ)は、2022年3月28日にオープンした。ユニークな外観形態をもつ建物は、“砂漠のバラ“によって啓発されたといわれている。実際にヌーヴェルは、自然そのものが創造した初めての建築ストラクチャーと定義している。“砂漠のバラ“とは砂漠の自然が生み出した造形作品。英語でDesert Rose または Sand Roseと呼ばれる“砂漠のバラ“は、ある種の化合物が自然現象でバラのような形状の結晶に成長した石である。その形態は薄い花びらが多数結合したフォルムとなっている。

延床面積52,000㎡の「カタール国立博物館」は、まさに“砂漠のバラ“を拡大したような円形や楕円形の薄いディスクのような屋根が輻輳するルーフスケープを見せて圧巻のダイナミズム。よくぞこのような造形が、建築として成立したなと思わせる作品である。この錯綜するストラクチャーは内部にまで続き、無数のイレギュラーな形をしたヴォリュームを創造している。

「カタール国立博物館」は、近代カタール創設者の息子であるシェイク・アブドゥラ・ビン・ジャシム・アルサーニの歴史的な王宮を含んでおり、それは改修されて同館における展示物の目玉となっている。同館にある11の常設展示ギャラリー巡る1.5kmに及ぶ通路により、「カタール国立博物館」は、来館者を何百年前のカタール半島創成期から、エキサイティングな多様性に満ちたカタールの現代までを体験させる。

同建物には企画展示ギャラリーもあり、そのオープニング・エキシビションは“Making Doha: 1950-2030”(2019年3月28日-8月30日)であった。首都の連続する都市的かつ建築的開発を追求するものであった。OMAとAMOのレム・コールハースとサミール・バンタルと、ファトマ・アル・シェラウィおよびカタール・アトラス書店の研究チームによってキュレートされた“Making Doha: 1950-2030”は、ドーハの有機的な発展から近代まで70年間の変遷や経緯を、写真をはじめ、模型、図面、テキスト、映像、口述などで展示している。

上空からの俯瞰写真をみると、敷地にセントラル・コートである“バラハ”がある。その周囲をリング状にギャラリー群が巡っている構成だ。さらにその広場は、アウトドアでの文化的イベントの集会スペースとして使用される。キャンティレバーで突出したディスク群は、強い日差しを遮り日陰を提供している。ドーハの気候を考慮したデザインとなっている。

ジャン・ヌーヴェルは以下のように述懐している。「建物デザインのベースとして“砂漠のバラ”を取り入れたことは、非常に先端的なアイディアだ。ユートピア的な考え方だ。大きな湾曲したディスク群が交差し、キャンティレバーで組み上がった建物は、“砂漠のバラ”によってできたような形態だが、これは大きな技術的チャレンジであった。この建物はカタールそのものと同じように、まさに先端技術の結晶であった。その結果、それは建築的、空間的、感覚的にどこにもないような内部空間を擁した全体的なオブジェとなった。」

広場越しに湾の先にあるドーハのダウンタウンを遠望する。超高層ビルが林立して近代的な都市景観を見せている。

イベント・スペースや集会スペースとしても使用される “バラハ”(広場)を見る。外壁材は超高性能ファイバー強化コンクリート・パネルだ。

円盤の大きさは大きなもので直径数十メートルほどあるらしい。

薄いエッジが非常にシャープなイメージを発散して、かつてない新しい建築イメージが喚起される。

写真に映った人間の大きさと比較すると、建物はかなりの大きさであることが分かる。

厳しい暑さをしのぐために、随所に日陰のスペースがデザインされている。

同館にある11の常設展示ギャラリー巡る1.5km及ぶ通路により、来館者は何百年前のカタール半島創成期から、エキサイティングな多様性に満ちた現代までを体験できる。

マスター・プラン

長手断面図

短手断面図



Design Ateliers Jean Nouvel
設計:アトリエ・ジャン・ヌーヴェル
Jean Nouvel/Ateliers Jean Nouvel
Portrait by Gaston Bergeret

http://www.jeannouvel.com

Photos: 1,4,5,7 by Iwan Baan/ Photos 3, 6, 8 by Lida Guan/ Photo 2 by Martin Argyrooglo
Drawings by Ateliers Jean Nouvel




著者プロフィール
 
淵上正幸 Masayuki Fuchigami
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。