2023.01.07建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第57回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#57)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

100 Above the Park (St. Louis, USA)
公園脇の100mタワー(アメリカ、セントルイス)

近隣のフォレスト・パークから見た「公園脇の100mタワー」。女性的な雰囲気を漂わせた外観は華やかで魅力的だ。

セントルイスはアメリカ中央部から、やや東寄りにあるミズーリ州の商工業都市。多くの建築好きにとっては,アメリカ建築界の巨匠、エーロ・サーリネンが設計した高さ192mの「ゲートウェイ・アーチ」があるところとして知られている。最上部には展望台があり、セントルイスの街並みをワイドに俯瞰できる素晴らしさだ。

かつてある芸術雑誌から頼まれて、セントルイスにある安藤忠雄設計の「ピューリッツァー美術館」の館長にインタビューしたことがある。当時故ピューリッツァー氏の奥様が館長をしており、インタビュー後の雑談で、彼女がセントルイスの建築について話してくれた。その中で先の「ゲートウェイ・アーチ」以外に、バックミンスター・フラーの「ジオディシック・ドーム」あると聞いて、勇んで出かけた。植物園となっていたドームの中に、冬なのに蝶蝶がヒラヒラと飛んでいたのには驚いた記憶がある。

ジーン・ギャング設計の「100 Above The Park」はアメリカ中央部のセントルイスに立つ総戸数は316戸、高さ116mの高層集合住宅タワー。商業店舗、アメニティー施設、パーキングを含み、住戸からは西側にフォレスト・パークを望み、東側に先述の「ゲートウェイ・アーチ」を望むことができる。「100 Above The Park」は樹木の葉に似たユニークなプランをもち、段状に連なる形態は全体的なエネルギー負荷を減らしており、そのユニークな建物形態が近隣では話題となっている作品である。

建物は4階分をひとつの層として区切り、上部に向けて開くようなデザインとなっている。この層が積層化されて建物全体が構成されている。従ってファサードは、テラスを広く取るよう上広がりになるよう角度が付けられている。つまりテラスがあるのは4層の一番下の階にある住戸に限られている。

また住民コミュニティーにとっての共有のアメニティー・スペースは、グリーン・ルーフに設置されており、繁茂した緑の中での安らぎのあるアトモスフィアに浸れるようになっている。敷地のオリエンテーションや環境条件による種々のメリットをさらに高めることで、樹木の葉のようなプランニングや積層化されたマッスはその効果を最大に発揮している。逆に全体的なエネルギー負荷を減らした住みやすさによって、住民の満足感を向上させている。

建物の非常に特徴ある外観は、一見して女性的と理解できる。このフォルムは男性建築家からは生まれ難い気がする。上広がりのフォルムは華やかな雰囲気を醸し、おそらく女性の居住者が多いと推察される。近隣には公園をはじめグリーンが多く、子育てという観点からも女性を惹きつける魅力十分な集合住宅である。

建物の1階には住民の生活を補足する便利な機能がひしめいている。曰くメール・ルーム、荷物預かり所、賃貸ルーム、自転車置き場、店舗、リサイクル・ルーム、パーキング、ユーティリティ・ルーム、消防室、荷積み室など。さらに基準階平面図を見ると、プランニングも華やかなのだ。直線状のセンター通路が南北に走り、その左右に各住戸が雁行する形で連続している。非常に事細かく複雑なプランだが、ジーン・ギャングは手を緩めずビシッと決めている。この辺りがユニークな集合住宅を生み出す手練と言われる所以ではないだろうか。

緑の森や雪景色といったダイナミックなシーンを生み出す近隣のフォレスト・パークは、変わりゆく日差しや天候をエンジョイする建物の素晴らしい背景になっている。このハイエンドなアパートメントは特にフォレスト・パークと有名なゲートウェイ・アーチへの眺望が素晴らしいのが謳い文句だ。個々の住戸はコーナー部分にリビングを配して、2方向へ視界が開けるのが可能になっている。パノラミックな景色に加えて、住戸内にはハイ・クオリティの太陽光をふんだんに導入している。1階には店舗スペースもあり、公園側へのワイドな街路風景も、住民にとっては楽しめるアーバンスケープのひとつとなっている。

右下のごく普通の建物に比較すると、圧倒的に手の込んだデザインであることが分かる。

青空を宿したガラス面と長辺三角形の外壁が、上広がりに伸び上がるファサードは整然としたジオメトリックな表情を醸している。

妻側のスリムな外観。商業施設がある基壇部分も上広がりなファサード・デザインとなっている。

正面ファサードのエントランス部分を見る。正面側のデザインも波打つようなデザインで上広がりとなっている。

4階ごとのテラスも波打つデザインとなっている。

広い室内にはハイ・クオリティの太陽光をふんだんに導入している。

雪化粧をした公園越しに見た建物。清澄な雰囲気の中に佇む建物は、凛とした表情で魅力的である。

配置図

基準階平面図

Design: Studio Gang
設 計:スタジオ・ギャング
Jeanne Gang/ Studio Gang
Portrait by Studio Gang

https://studiogang.com/


Photos 1, 3, 4, 5 by Tom Harris/ Photo 2, 6, 7, 8 by Nick Sam Fentress
Site plan and Standard plan by Studio Gang




著者プロフィール
 
淵上正幸 Masayuki Fuchigami
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。