2023.03.01建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第58回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#58)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

Haeundae Udong Hyundai I’Park (Pusan, Korea) 
海雲台ウドン現代アイパーク(韓国、釜山)

釜山の海際ギリギリに立つ「海雲台ウドン現代アイパーク」は、まさに彫刻のようなフォルムで伸び上がる姿が爽やかな印象を醸している。

韓国南部の釜山といえば、ソウルに次ぐ大都市である。よく言われるのが、ソウルを東京とすると釜山は大阪に当たるといわれている。つまり釜山は商業都市ということになる。地図を見ると、釜山は対馬のすぐ上にあり、日本に非常に近い位置にある。韓国の人々が訪日する場合、釜山経由で来るのが非常に多いと聞く。

アメリカ建築界のスター・アーキテクトであるダニエル・リベスキンドは、かつてニューヨークのグラウンド・ゼロのマスタープラン・コンペに優勝した現代アメリカ建築界の巨匠である。その彼が、海に面する韓国の港湾都市である釜山の海際に建てたのが「海雲台ウドン現代アイパーク」だ。釜山のウォーターフロントに建った建物は、力強いアイコンとなるダイナミックな建築の創造をコンセプトにして建設された。 

リベスキンドが5棟の新しいタワーを彫刻的な形に納めたのは、海の美しさと力強さを表現するためであった。外壁を構成する曲面的ジオメトリーは、海の優雅な表情、風をはらんだ帆、花びらのユニークな構成美など、自然美から派生した伝統的な韓国建築のコンセプトを踏襲しているのである。

「海雲台ウドン現代アイパーク」は3棟の集合住宅を筆頭に、オフィス・タワー、ホテル・タワーの全5棟からなっており、総延床面積は418,100m² という巨大な開発であった。当時集合住宅タワーは全て高さ200m以上あり、アジアにおける最高の集合住宅タワーであることと、斬新なコンドミニアム生活を意図したものであった。因みにタワー1は273m、タワー2は292m、タワー3は205mであった。

建物の内外部空間は、住人に対して安全かつ居心地のよい住環境を提供する。水辺に屹立する建物は、広大な海、遠くの山々、眼下のマリーナ、グアン・アン橋など、釜山市の美観や敷地の利点を最大限活用している。リベスキンドはアイコニックなイメージを創造するために、釜山市のスカイラインを背景に際立つ垂直的な形態を選んだ。高さは変化し、テーパーし、水平線上に彫刻的な構成を見せている。

「海雲台ウドン現代アイパーク」は釜山のウォーターフロントに座し、量塊性のある建物全体のマッスをブレイクダウンし、スレンダーかつエレガントな建築群として構成した。それらの彫刻的フォルムは、建物間に刺激的な空間を穿ち、住民やビジターにユニークなアウトドア体験をも可能にしている。

タワー群の配置により敷地内には広い公園も完成している。タワー群は美しくランドスケープされた公園を取り囲んでおり、公園そのものは住民や敷地を訪れるビジターに大きなオープン・スペースを提供している。公園空間とランドスケープの開放性を最大限にするため、幾つかの集合住宅プログラム的でないデザインが公園空間にインテグレートされている。

建物全体のイメージは、個々の建物の形態のみならず、敷地における建物の配置形態によって創造された。敷地の形を最大限利用して、敷地のエッジ沿いに南西方向の景色を望み、かつ公私のスペースをきっちりと分けて、最も好ましいアパートメント・タワー群が完成した。この開発は海雲台エリアの21世紀的新しいイメージと、韓国におけるレジデンシャル・リビングにおける新しいビジョンの双方を創造することがメイン・テーマであった。

近隣の海上を高速道路が走り、車中の人々に美しい造形美を披露している。

「海雲台ウドン現代アイパーク」の住民も使用しているであろう近くのマリーナからの全景。

左手の街中の建物と右手の既存の建物群などとは全く異なる造形デザインである。

アイパーク内を走るストリートから見る。5本のタワーが異次元のような都市空間を創造している。

建物群に囲まれた公園を見る。右手に空中ブリッジが見える。

公園の上部を走る高架ブリッジが建物間を連結している。

ホテルのフルハイトの開口部からは広大なオーシャン・ビューを満喫できる。

コンセプト・スケッチ(レフレクション)

Design: Daniel Libeskind
設 計:ダニエル・リベスキンド
Daniel Libeskind/ Studio Libeskind
Portrait by Ilan Besor

https://libeskind.com/


Photos by Hufton + Crow

Concept sketch (reflection) by Daniel Libeskind




著者プロフィール
 
淵上正幸 Masayuki Fuchigami
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。