2023.03.07建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第59回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#59)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

Iqon Residential Tower (Quito, Ecuador)
イコン集合住宅タワー(エクアドル、キト)

32階建ての「イコン集合住宅タワー」を俯瞰する。足元にはストリートを挟んで緑のカロリーナ公園がある。

南米エクアドルの首都キトに、今話題の建築家ビヤルケ・インゲルスがデザインした「イコン集合住宅タワー」(Iqon Residential Tower)が完成し話題となっている。建物はキトのカロリーナ公園近くにできた高層ビルで、インゲルス初の南米建築となった。

カロリーナ公園とストリートを挟んで向かい合う32階建ての建物は、ファサードがカスケード状になったバルコニーが特徴の建物。キトでは最高のタワーで、220戸のアパートを擁し、コマーシャル・スペースとオフィスも併設されている。

高さ133mのスカイスクレーパーは特異な外観で、キトのスカイラインに君臨している。ファサードには、現地の樹木や草花を植えたコンクリート・ボックス群で覆われている。こうしたデザインは都市やピチンチャ火山を展望し、時間の経過に連れてグリーンが生育し、カロリーナ公園の緑と連携することを目指している。

インゲルスが考えたのは、キトのアイコニックな性質すなわち、地球上で最も生物多様性のある国のひとつであり、人間や植物にとってはパーフェクトな季節がある赤道直下の国という体験を、垂直的な次元に変換したという。

インゲルスによれば、キトの全てのアイコニックな性質を引き出すことにより、個人住宅群の垂直的コミュニティである「イコン集合住宅」を建設し、カロリーナ公園を建物の頂上まで伸び上がらせた増築というコンセプトをベースにしているようだ。

「イコン集合住宅」は、キトにあるふたつのランドマーク的集合住宅のひとつとしてデザインされたものである。もう一方は、サフディ・アーキテクツによる南米初の集合住宅である「コーナー・ビルディング」(Qorner building)だ。

インゲルスによる「イコン集合住宅」と、近隣にあるサフディ・アーキテクツの建物は、キトにおける現代建築ブームを反映しているようだ。ふたつの建物は、キトという都市が、建築、デザイン、イノベーションなどの試金石と変貌していくプロセスを表現しているとも言われている。

最初の住民が入居するに連れて、建物内部でのビジネスがスタートし、両ビル間での相互作用により、近隣の繁栄のドライビング・フォースになることが期待されている。「イコン集合住宅」は延床面積が55,000㎡もあり、220戸のアパート、5店舗の商業施設、36社のオフィスが入居している巨大ビルディング。住居は1ベッド・ルームから3ベッド・ルームがあり、その中にはキト市街のパノラミックな景観をエンジョイできる、ゴージャスな9戸のペントハウスが含まれている。

住戸、オフィス、商業施設に加えて、建物にはパブリック・プラザ、ショップ、野菜ガーデンが併設された大きなグラウンド・フロア・プラザがある。その他のアメニティとしては屋上プール&テラス、スポーツ&スパ施設、ボーリング場、ミュージック・ルームなどがあり、同市における先端的アーバン・ライフを享受できる施設である。

カロリーナ公園から見た高さ133mの建物には220戸のアパートや、店舗やオフィスも併設されている。

各アパートメントがカスケード状に斜めに積層化されている。

カロリーナ公園から妻側を見ると非常にスレンダーに見えると同時に、複雑な住戸配置をしているのが分かる。

外壁のクローズアップ。各住戸の屋上は上階の住戸のバルコニーとなっている。

下から見上げると、各住戸は右側へずれながら上昇していく形でファサードを覆っている。

建物のファサードを見下ろす。各住戸のファサードは全面ガラス張りでワイドな眺望を獲得している。すべてのバルコニー内右側に樹木が配置されており、この緑が生育してバルコニーが樹木でいっぱいになったとき、カロリーナ公園との緑の連続体が生まれることを、インゲルスは望んでいる。

フルハイトの開口部からはキトの街並みが展望でき、多量の自然光が期待できる素晴らしさだ。

Design: Bjarke Ingels
設 計:ビヤルケ・インゲルス
Bjarke Ingels /Bjarke Ingels Group (BIG)
Portrait by Jonas Bie

Photo 1 by DJI
Photos of 2~6 by BICUBIK
Photos of 7 & 8 by Pablo Casals Aguirre


著者プロフィール
 
淵上正幸 Masayuki Fuchigami
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。