2023.04.05建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第60回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#60)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

Tours Duos (Paris, France)
トゥール・デュオ(フランス、パリ)

V字形に開いた「トゥール・デュオ」の全景。手前が「デュオ-1」で奥が「デュオ-2」となっている。

●V字形に傾斜した大胆な造形美
フランス建築界の巨匠ジャン・ヌーヴェルと言えば、飛ぶ鳥を落とす勢いの世界的な建築家である。2002年東京に彼初の超高層「電通タワー」を完成させ、その後ニューヨークに超高層のハイグレードな「53West53」、さらに中国に「深セン・オペラハウス」、「上海浦東美術館」と話題の作品をデザインし続けてきた。そのパワフルなヌーヴェルが、今度は地元パリに「トゥール・デュオ」というV字形に傾斜したユニーク極まりない建築を完成させ、パリジャンの度肝を抜いた。


今パリの東部地区は新規開発が進行し、パリの未来に向けて強烈な牽引力を発揮しつつある。というのは2024年の夏季オリンピックのため、パリは高層ビル建設のラッシュが続いている。こうした状況の中、ジャン・ヌーヴェル設計の「トゥール・デュオ」は、ドミニク・ペローがデザインした「フランス国立図書館」からセーヌ川沿いに、地図上で少し南側に下った位置で、パリ左岸の13区にあるブリュンゾー通り沿いに立ち上がった。

2棟からなる「トゥール・デュオ」は、延床面積140,000㎡の巨体で、39階建て、高さ180mの「デュオ-1」にはオフィス、オーディトリアム、レストラン、ショップが組み込まれている。29階建て、高さ125mの「デュオ-2」にはオフィス、レストラン、ショップ、ホテル(139室)、パノラミック・レストラン、バーがある。また「デュオ-1」にはオープン・テラスがあり、パリのワイドな景観を満喫できるようだ。建物は324mのエッフェル塔、210mのモンパルナス・タワーについで、パリで3番目に高いビルとなった。

建物は2棟がV字形に対峙した感じで立ち上がっているが、手前に立っていて頭がある建物が「デュオ-1」で、奥側に傾いて見えるのが「デュオ-2」である。「デュオ-2」には、著名インテリア・デザイナー&建築家のフィリップ・スタルクがデザインしたホテルがある。敷地がセーヌ川沿いの工業地帯とはいえ、おそらくゴージャスなフィニッシュが施されていることは想像に難くない。
 
「トゥール・デュオ」の特徴のひとつは、サミット(頂上部分)に”頭”があることだ。高層ビルに”頭”がデザインされていることは、歴史的に見ても非常に少ない。これらふたつの”頭”で建物は識別可能となっているし、これらふたつのサミットがお互いにトークし合ったりしているように見えるのだ。

このような建物同士の関係性については、かつてアメリカの著名建築家ダニエル・リベスキンドが、シンガポールに「レフレクションズ・アット・ケッペル・ベイ」という集合住宅タワー群を建て、その中の大小のタワーがお互いにトークしているように見えたデザインが話題になったことがある。

パリ東部開発の起爆剤ともいえる「トゥール・デュオ」は、強烈なランドマークとして君臨する必要があり、このエリアを未来へと牽引するメルクマール的存在である。さらに先述のように、「トゥール・デュオ」は夏季オリンピックの建設ラッシュの一翼を担うプロジェクトとして期待が高まっているのだ。

来年夏、パリ・オリンピックに行かれる方もいると思うが、有名な「フランス国立図書館」など建築を見学する方は、そこから歩いていける距離にあるジャン・ヌーヴェルの話題作「トゥール・デュオ」も建築見学リストに入れるのをお忘れなく!

「デュオ-1」の外壁。ガラス張りの外壁には傾いている分、地上景色の映り込みが反映されている。

「デュオ-1」のオープン・テラスを見る。テラス部分とその天井部分がずれており、天井がテラス全部をカバーしてない。

側面道路から見上げると、頭のある大きな「デュオ-1」に、手前にある「デュオ-2」が重なって、一見ひとつの建物のように見える。

「デュオ-1」のテラスから見下ろすと、巨大な列車停車場とそれを跨ぐ幅の広い自動車専用ブリッジが見える。

「デュオ-2」のコーナー部を見る。右手の外壁がV字形に「デュオ-1」に対峙した外壁で、うねるようなブリーズ・ソレイユ(日除け)が装備されている。

この「デュオ-2」のV字形に「デュオ-1」に向かい合ったファサードに陽が当たると、写真のように乱反射のごとき現象が起きる。

セーヌ川越しに見た「トゥール・デュオ」の全景。

 トゥール・デュオ:配置図

トゥール・デュオ:1階平面
 
 デュオ-1:基準階平面図

 デュオ-2:基準階平面図

トゥール・デユオ:断面図
 
Design Jean Nouvel
設 計:ジャン・ヌーヴェル
Jean Nouvel/ Ateliers Jean Nouvel (AJN)
Portrait by Albert Watson

http://www.jeannouvel.com/

Photos by Roland Halbe
Drawings by Ateliers Jean Nouvel


著者プロフィール
 
淵上正幸 Masayuki Fuchigami
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。