2023.12.06建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第68回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#68)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

Google Bay View Campus (San Francisco, USA)
グーグル・ベイ・ビュー・キャンパス(アメリカ、サンフランシスコ)

「グーグル・ベイ・ビュー」を俯瞰すると、亀の甲羅のような特徴あるパターンにデザインされた屋根形がユニーク極まりない印象だ。

●屋根に50,000枚のシルバー・ソーラー・パネルを装備したサステイナブル・デザイン
グーグルと聞くとアメリカの大きなコンピュータ関係の会社で、Gメールをやっている会社というくらいの知識しかなかった。今回この原稿を書くにあたって調べてみると、とんでもない巨大な経営組織で、GAFAと呼ばれるGoogle, Apple, Facebook, Amazonという世界的に活動を展開する企業集団のひとつである。

カリフォルニア州にできたグーグルの新社屋は「グーグル・ベイ・ビュー」と呼ばれ、ニューヨークを拠点に世界的に活躍する建築家ビヤルケ・インゲルスと、繊細なデザイン感覚をもつイギリスの建築家トーマス・へザウィックが共同でデザインした。グーグルは2030年までに、1日24時間365日をカーボン・フリー・エネルギーで稼働することをターゲットにした新しいキャンパスの創造を目指している。

将来におけるグーグルの職場において、人間を中心に据えたサステイナブル・デザインでイノベーション(技術革新)を生み出すという目的を実現し、さらに建築業界のみならず他の業界へも通底するフレキシビリティのある解決策を提供することを目論んでいる。

シリコンバレーにあるNASAエイムス・リサーチ・センター(約17万㎡)の敷地にある「グーグル・ベイ・ビュー」キャンパスは、3つの建物からなり約8万㎡のオープン・スペースを筆頭に、2つのワーク・スペース棟、1,000人収容のイベント・センター、240の短期社員宿泊施設を含み、合計約10.2万㎡の広さがある超大型施設だ。3棟の建物はすべて内部への自然光、眺望、共同作業、アクティビティにとって最適な軽量キャノピー構造になっている。

「グーグル・ベイ・ビュー」キャンパスの3つの新しいビルは、先述したように、一年中カーボン・フリーのエネルギーで稼働する初の大企業の建物で、サステイナブル・デザインの程度を示すLEED(環境性能評価認証システム)の最高位であるプラチナム認証を受けた優秀建築ということになる。

グーグルはプロジェクトのスタート時において、「イノベーション、自然、コミュニティ」という3つのテーマを基軸にしており、共同作業と共同創造を刺激するフレキシビリティと高度なユーザー・エクスペリエンスを追求したデザインとなっている。上階にはチーム・スペース、下階には集合スペースを配置し、フォーカス・エリアとコラボレーション・エリアを分離しつつ、どちらにも容易にアクセスできるようにしている。
さらに2階のフロア・プランにバリエーションを持たせることで、チームのニーズに応じて、柔軟に変化する近隣エリアを設けている。

「グーグル・ベイ・ビュー」をデザインしたビヤルケ・インゲルスは、新キャンパスのデザインは、非常に協力的なデザイン・プロセスの結果であるという。グーグルのような駆動型のクライアントと仕事をすることで、すべての意思決定が確かな情報と、実証的な分析に基づいて行われる建築が生まれた。その結果、印象的な”竜の鱗“のようなソーラー・キャノピーは50,000枚のシルバー・ソーラー・パネルを装備し、降り注ぐ自然光を吸収して7メガ・ワットの電力を生み出す。またこのキャンパスには庭園に植栽された美しい花が、建物からの水を濾過してきれいにする根域庭園を備えているのは素晴らしい。

比較的海に近い敷地に3つの建物が近接して建っている。

池越しに見た夜景。池に映った逆さまの姿とのダブルの姿が幻想的な表情だ。

屋根のクローズアップ。中央の棟(むね)の左右に弓形の開口部が連続するデザインで内部には自然光が満ち溢れる。

開口部以外の屋根面のクローズアップ。

カリフォルニアの明るい日差しの中、8万㎡のオープン・スペースという広さのキャンパスを闊歩する社員たち。

上階にはチーム・スペース、下階には集合スペースを配置している。

内部の大空間を見晴らす。天井にあるトップライトからの自然光で内部は非常に明るい。

Design : Bjarke Ingels Group & Heatherwick Studio
設計:ビヤルケ・インゲルス・グループ & へザウィック・スタジオ

Design by BIG + Heatherwick Studio

Portrait of Bjarke Ingels by Jonas Bie
Portrait of Thomas Heatherwick by Heatherwick Studio

Photos by Iwan Baan

著者プロフィール
 
淵上正幸 Masayuki Fuchigami
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)、「巨匠たちの住宅 20世紀住空間の冒険」(青土社)その他がある。