2024.01.16建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第69回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#69)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

Milano Tower(Milano, Italy)
ミラノ・タワー(イタリア、ミラノ)

ミラノの「シティライフ」という都市開発エリアを見晴らす。3棟のタワーは左より「イソザキ・タワー」、「ザハ・ハディド・タワー」、「ミラノ・タワー」。

●大きくカーブして聳え立つミラノのランドマーク

イタリアのミラノに大きくカーブして聳え、俗には「ミラノ・タワー」と呼ばれるこのタワーは、設計者の名前をとって「リべスキンド・タワー」、もしくは「PwC Tower」とも呼ばれている。2020年に完成したこのランドマークは、ミラノの「シティライフ」という都市開発プロジェクトの一部としてスタートしたものである。

高さ175mのタワーは28階建てで、延床面積76,000㎡を擁している。このタワーはプライス・ウォーター・クーパーズ社のミラノ本社であるが、先述のように設計者であるポーランド系アメリカ人のダニエル・リべスキンドの名前をとって「リべスキンド・タワー」とも呼ばれている。

このタワーの大きなカーブは、すぐそばに立つ日本の建築家である磯崎新がデザインした「イソザキ・タワー」と、イギリスのザハ・ハディドがデザインした「ザハ・ハディド・タワー」に対抗して建てられたものである。3棟のタワーの足元には、トレ・トリ(3つの塔)広場と呼ばれる市民広場が展開されている。

“ルネッサンス・キューポラ”(中世ルネッサンス時代の明り取り)が、「ミラノ・タワー」の基本的なコンセプトとなっている。それはエレベーションの凹面的な動きを再解釈したもので、このプロジェクトの目立つ造形エレメントであるクラウンで最高潮に達する。高さ40mもあるクラウンは、建物のメンテナンス、エアコンディショニング、および雨水リサイクル・システムを含むのみならず、一般大衆のための展望プラットフォームやアート・ギャラリーともなっている。カーブしたタワーのファサードは、サステイナブルで先端技術的なガラスでできており、下部の公共空間や周囲の景観を映し出している。

アメリカの建築家ダニエル・リべスキンドが、3番目のシティライフ・タワーを建てたそのコンセプトは、古典的なルネッサンス・ドームであり、再解釈されて凹面的な形態となった。タワーの1階は3層吹き抜けたエントランス・ホールがあり、ショッピング・エリアや地下鉄M5番出口、および新しい市民広場からのアクセスが可能となっている。

オフィスは2階から28階を占めており、27階には2層に渡ってオフィスがあり、さらに2層に吹き抜けた先端的な会議ホールがある。8つのエレベーターがある中央コアは2つに分かれ、空間利用の最高のフレキシビリティを保証している。またミラノ・タワーにおける数多くのテナントたちのイベント時にも同様のフレキシビリティを発揮している。


反対側からみる。3棟の間にトレ・トリ(3つの塔)広場と呼ばれる市民広場が展開されている。

正面から見た「ミラノ・タワー」。高さ175m、28階建て、延床面積76,000㎡の威容を見せている。


足元のトレ・トリ広場から見上げた3つのタワー。中央が「ミラノ・タワー」。

3棟の右側に建っているのは、リべスキンド設計の「シティライフ集合住宅」。

大きく曲がった高さ175mの「ミラノ・タワー」は、圧倒的な存在感が売りとなっている。

白く透明感のあるエントランス・ホールは、リべスキンドらしく傾斜した天井やガラス張りのファサードが特徴となっている。

最上階近くのペントハウス空間は構造体がむき出しの展望スペースになっている。

Design : Daniel Libeskind
設   計: ダニエル・リべスキンド

Design by Studio Libeskind
Portrait by Ilan Besor
Photos by Hufton + Crow


著者プロフィール
 
淵上正幸 Masayuki Fuchigami
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)、「巨匠たちの住宅 20世紀住空間の冒険」(青土社)その他がある。