2024.03.04建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第70回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#70)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

UNIC Apartment(Paris, France)
ユニック・アパートメント(フランス、パリ)

公園の樹木の間から見た高さのある外観。

●パリにおいて中国建築家としては初めてデザインした大規模建築
MAD Architectsといえば、今や中国を代表する国際的建築家集団である。北京を拠点にアメリカやフランスといった西欧の先進国にまで進出して活躍している。この連載でもアメリカ・ロサンゼルスに完成した「ガーデン・ハウス」や、カナダに完成した「アブソリュート・タワーズ」を紹介したが、今回はフランスのパリに竣工した「ユニック・アパートメント」を紹介する。

MADはマ・ヤンソンをはじめ、ダン・チュン、早野洋介という3人のデザイナーの元に結集された建築家グループである。当初は中国本土における作品がほとんどだったが、近年は先述のようにアメリカやヨーロッパでデザイン活動を拡大している。日本人メンバーの早野洋介は一時期ロンドンのザハ・ハディド事務所にも籍を置いていたという、国際性に富んだ建築家である。
 
MADアーキテクツのヨーロッパ初の作品「ユニック・アパートメント」が、芸術の都パリに完成した。この集合住宅は高さが50メートルもある13階建てのアパートメントで、パリ第17区のクリシー・バティニョール地区にある広さ1,033㎡の敷地に立っている。2012年にMADがコンペで選出されたのは、中国建築家として大規模な建築をパリにおいてデザインするのは初めてのことであった。まさに中国建築家によるヨーロッパ進出の橋頭堡であった。

「ユニック・アパートメント」はカーブの多い曲面的外観をもつデザインが特徴で、この界隈ではユニークなランドマーク建築となっている。それは10ヘクタールもあるマルチン・ルーサー・キング公園脇にある、オスマン男爵(パリの都市改造をした人)がつくった有名なアパートメント・ブロックを引き立てている。この公園と近隣界隈との対話を意図してデザインされた「ユニック・アパートメント」は、近隣の建物同様、ハイ・パフォーマンスの窓ガラスを使用し、パッシブ暖房&冷房のデザインや高密度素材などの、先端的な材料や技術を用いている。

MADは同じような繰り返しのデザインをやめて、有機的にうねる形態のテラスにより、「芸術の都、パリ」のダイナミックな景観を住民がエンジョイできるようデザインしている。それはパリの代表建築であるエッフェル塔や、名所として名高いサクレ・クール寺院を視野に入れたデザインで、住民にとってはパリの景観における醍醐味を満喫できる嬉しい配慮となっている。

さらにユニークなのは、個々の住人が選んだ樹木を自分のテラスのプランターに植樹することができ、リビングから見える都市景観を自分流にフレーミングすることができるという自由がある。テラスはほとんど全ての住民が新鮮な外気、光、自然に触れるように考案されている。またそれは住民がちょっとしたコミュニテの集まりもできるよう大きめなスペースとなっている。住戸プランも同じフロア・プランがないようデザインされている。敷地周辺に植え込まれた樹木と同様、うねるテラスのデザインはこの界隈を活気づけるのに一役買っているのだ。基壇部分にはレストランや幼稚園などもあり、人が集まり賑わいが絶えない集合住宅となっている。

テラスが柔和なカーブを描くデザインで建物全体がソフトな印象を与えている。

マルチン・ルーサー・キング公園から見た「ユニック・アパートメント」。大きな公園が近くにあると、家族の散歩や子供の遊び場にうってつけである。

「ユニック・アパートメント」の左側越しにパリの街を見晴らすと、左手彼方にサクレ・クール寺院が遠望できる。

建物コーナー部を見上げると、波打つテラス群が重層したデザインの面白味が味わえる。

マルチン・ルーサー・キング公園越しにみた正面側の外観。近隣の角ばった建物に比べると印象が全く違う。

パリの細い路地に面して「ユニック・アパートメント」は建っている。

1階コーナー部には地下鉄のエントランスがあり、便利なマンションとなっている。

マ・ヤンソンによるパリのスケッチ
 
Designed by MAD Architects

From left to right: MA Yansong, Dang Qun, Yosuke HAYANO

Portrait by MAD Architects

http://www.i-mad.com/

Photos 1~3 & 5~8 by Jared Chulski
Photo 4 by Adam Mork





著者プロフィール
 
淵上正幸 Masayuki Fuchigami
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)、「巨匠たちの住宅 20世紀住空間の冒険」(青土社)その他がある。