2024.03.19建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第71回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#71)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

Saint Rijis Chicago (Chicago, USA)
セント・リジス・シカゴ(アメリカ、シカゴ)

シカゴ川側から見上げたスリムは超高層タワー。女性建築家がデザインした建築では世界一高い101階で363mもある。

●女性がデザインした世界一高い建築

アメリカでは今でこそニューヨークに高層ビルが林立しているが、元はといえばシカゴがアメリカにおける高層ビルの発祥地であったのはご存じであろうか。周知のようにシカゴを代表する超高層ビルである「ウィリス・タワー」(元のシアーズ・タワー、442m)を筆頭に、「トランプ・インターナショナル・ホテル&タワー」(423m)、「ジョン・ハンコック・センター」(343m)などの超高層ビルが櫛比している。そこに女性がデザインした建築としては世界一高い「セント・リジス・シカゴ」が、ジーン・ギャングによってデザインされ完成した。

シカゴ・スカイラインにおける第3番目に高い建物は、都市の新しいエッジを確立し、レイクショア・イースト・コミュニティをかつてない都市的連携力でしっかりとその近隣界隈に結び付け、一般市民のシカゴ川へのアクセスを高めている。建物にはコンドミニアム、5スター・ホテル、レストランおよびアメニティー・スペースがあり、建物の住民用とホテル用のアメニティは上階レベルにあり、活気のあるソーシャル・センターを生み出している。

「セント・リジス・シカゴ」を川や公園から見上げると、タワーそのものは高さの異なる3つのヴォリュームで構成されているのがわかる。ファサード上をリズミカルにうねる建物のユニークなデザインは、これら3つのヴォリューム間の異なる幾何学の結果である。イノヴェイティブな構造システムにより、中央の建物は地上レベルよりもちあげ、シカゴ・リバーウォークと近くにあるコミュニティ・パークの屋外レクリエーション施設間の歩行者通路が生まれるスペースをつくった。

離れてみると、「セント・リジス・タワー」の高さが異なるシルエットは、「ウィリス・タワー」や「トランプ・タワー」を想起させる。というのは、広い基壇から細い頂上へと変化していく形態は、シカゴ・ビルディングの特徴であり、力強い存在なのだ。それはマンハッタンの“ビリオネアーズ・ロウ”(億万長者通り)の狭い敷地に建つシガレットのような危うげな超高層とは全く違う印象である。

101階で363mの建物は女性が設計した建物では世界で一番高く、シカゴでは第3番目に高い。393戸のコンドミニアムと191室のホテルを有し、住民に超ゴージャスな生活体験ができるようサービスが行き届いている。47階には住民専用のアメニティ・フロアがある。ここには屋外プールをはじめ、プライベート・ラウンジ&ダイニング・ルーム、デモンストレーション・キッチン、先端的なフィットネス・センター、会議センター、プライベート展望ルーム、ゴルフ・ラウンジ、子供活動ルームがある。

101階に立ち上がった建物は、住民が息を吞むようなシカゴ・リバー、ミシガン湖、シカゴのパノラマを提供している。「セント・リジス・シカゴ」はゲストや住民に無制限にオーダーメイド・レベルのサービスを提供できる。またモダンな感覚とクラシックな優雅さを兼ね備えた193室のゲスト・ルームと、いくつかのダイニング・オプションがある。

つまりプライベート・ルームでのダイニング・レストランや屋外テラス、オールデイ・ダイニング・レストラン&ラウンジ、屋外テラス付きのスカイ・バー、屋外テラス付きの屋内プール、スパ、フィットネス・ルーム、ダンス・ルーム、会議室などと非常に豪華なサービスを提供する。

夜景の「セント・リジス・シカゴ」は夜陰に溶け込むスリムな形態が格別な雰囲気を漂わせている。

足元から見上げると高さ363mの頂上までうねって伸びていくデザインの迫力に圧倒される。

ミシガン湖の上空からワイドに見晴らすと、シカゴ・ダウンタウンでは圧倒的な高さを誇っている。

エントランス前のロータリー越しに見た建物1階のエントランス・ポーチ付近。ポーチから建物に入りそのまままっすぐ進むと建物の反対側に出る。

テラスからみたシカゴの高層ビル群。正面右手に建つ建物は、やはりスタジオ・ギャングがデザインした「アクア・タワー」。

広々とした居心地の良いレストラン。

近隣の公園の樹木にフレーミングされた「セント・リジス・シカゴ」のエレガントな容姿。

Design by Studio Gang
Jeanne Gang

Portrait by Marc Olivier Le Blanc

https://studiogang.com/

Photos by Tom Harris



著者プロフィール
 
淵上正幸 Masayuki Fuchigami
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)、「巨匠たちの住宅 20世紀住空間の冒険」(青土社)その他がある。