2024.10.07建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第78回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#78)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

百子湾公営住宅(中国、北京)
Baiziwan Social Housing(Beijing,China)

全体は12棟の集合住宅から成り、4,000戸の住居を擁している。敷地の中心を貫通するメイン・アヴェニューによって固定されたエリアを6つのブロックに分けた。

●MADの多岐に渡る公営住宅研究の集大成作品

「百子湾公営住宅は、MADの作品としては初めての手ごろな公営集合住宅作品である。建物は北京の中央繁華街近くにあり、総延床面473,000㎡に及ぶ巨大開発である。全体は12棟の集合住宅から成り、4,000戸の住居を擁している。完成後から今までに、すでに約3,000の家族が入居している。建物は福祉生活者や若手の専門家用に建設されたものである。

このプロジェクトは、2014年にスタートしたマ・ヤンソン(MADの代表者)の多岐に渡る公営住宅研究の集大成である。このリサーチは、彼が精華大学や北京建築大学で教えている時に、彼自身のこのプロジェクトに対する愛着により進展した。その2014年に、北京公営住宅センターがマ・ヤンソンに「百子湾公営住宅」のデザインを依頼した。MADはこのコミッションを、低所得者層の生活環境を向上させる機会と捉え、中国の集合住宅の古臭いイメージ改善に努力した。

MADはコミュニティを都市組織に組み込み、近隣環境を都市につなげるという戦略を取った。敷地の中心を貫通するメイン・アヴェニューによって固定されたエリアを6つのブロックに分けた。その結果大きな敷地はより小さなヒューマン・スケールに断片化された。

ストリート・レベルでは、中心街には商店やコンビニエンス・ストア、店舗、カフェ、レストラン、幼稚園、薬局、書店、高齢者施設などがある。この計画の中心部を通る基幹道路は、近隣界隈と都市をコネクトされている。ヒューマン・スケールの敷地計画や空間の多様性によって、そのデザインは斬新かつオープンな都市生活を、新しい界隈として創造している。

フローティング・ガーデン
地上レベルの敷地がより多くの人々に開放されるが、2階レベルは住人だけがアクセス可能で、外部店舗スペースとなっている。歩道が6ブロックすべてをめぐって、多種の店舗機能、ジム、コミュニティ・ガーデン、バトミントン・コート、子供用運動場、生態保護区、コミュニティ支援サービスを含む大きな空中公園を形成している。さらに2階レベルの住民公園にくわえて、MADの計画では全体的に、床を半分ずらしたり、半分開放したスペースなどの多様的なデザインがある。集合住宅デザインにおける厳格な緑地スペースや、都心生活の高密度化にもかかわらず、この計画では、1階レベル、2階レベルの公園、屋上などのグリーン部分を増やし、住人が包括的にグリーンや屋外を楽しめるよう、47パーセントの緑地をデザインしたが、商業住宅エリアでは30パーセントとなっている。

一般的なトポグラフィー
空撮写真を見ると、これらのY字形の建物形態は高さもいろいろあり、全体的には敷地を覆う山のようトポグラフィーを形成している。建物同士の相互作用によって半内部空間が形成され、親密感が醸成され、ヒューマン・スケールのコミュニティが生まれた。少し離れて見ると、建物のシンプルな白いファサードや曲がりくねった山の形態は、都市のスカイラインに豊かな表情を与えている。

4,000戸の住戸群は6種類のタイプで形成され、40㎡、50㎡、60㎡の3つの超低度のエネルギー消費タイプに分かれる。部屋同士のパーティションには明るくコーティングされたボードが使用され、メンテしやすく、住人によるデコレーションにもフレキシビリティを発揮する。

高密度な集合住宅で高さも80mがリミットなため、各住戸の昼光が厳しかった。十分な昼光をとるためにY字形のデザインとし、個々の建物の共同廊下を北側に配置し、住戸に太陽光が当たるようにした。また建物の80%以上がプレファブ製品としたために、高品質な住戸が可能となった。さらに低エネルギー消費住戸として知られるパッシブ・ハウスのコンセプトを採用し、建物全体に通常よりエネルギー消費を90%も削減する建築を完成させた。

MADは中国における集合デザインの新しい地平を見定め、人類的、平等的、かつ斬新な生活環境の育成を、「百子湾公営住宅」に託したのである。

ストリート・レベルでは、中心街には商店やコンビニエンス・ストア、店舗、カフェ、レストラン、幼稚園、薬局、書店、高齢者施設などがある。

安全な場所に子供たちが自由に遊べる子供用運動場がある。

建物のシンプルな白いファサードや曲がりくねった山の形態は、都市のスカイラインに豊かな表情を与えている。

さらに低エネルギー消費住戸として知られるパッシブ・ハウスのコンセプトを採用し、建物全体に通常よりエネルギー消費を90%も削減する建築を完成させた。

1階レベル、2階レベルの公園、屋上などのグリーン部分を増やし、住人が包括的にグリーンや屋外を楽しめるようにしている。

完成後から今までに、すでに約3,000の家族が入居している。建物は福祉生活者や若手の専門家用に建設されたものである。

MADは中国における集合デザインの新しい地平を見定め、人類的、平等的、かつ斬新な生活環境の育成を、「百子湾公営住宅」に託したのである。

Design by MAD
設計: MAD
Portrait by MAD Architects

Photo 1, 6 by ArchExist
Photo 2, 3, 5, 7, 8 by Zhu Yumeng
Photo 4 by CreatAR
著者プロフィール
 
淵上正幸 Masayuki Fuchigami
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)、「巨匠たちの住宅 20世紀住空間の冒険」(青土社)その他がある。