2024.11.18建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第79回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#79)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

Arbi Grand Theatre(Arbi,France)
アルビ・グランド・シアター(フランス、アルビ)

ガラス張りの正面ファサードを巨大なサン・シェードが覆い、それが「アルビ・グランド・シアター」のメインのデザイン・エレメントになっている。

●フランスの田舎町に強かなデザイン力で生み出した大劇場

フランス南部の町アルビは、ラグビーやフォアグラで有名な町トゥールーズの近くにあるが、日本ではあまり聞かない都市である。そのアルビにフランス建築界の著名建築家であるドミニク・ペローが設計した建築が、「アルビ・グランド・シアター」という劇場である。

ペローによれば、「アルビ・グランド・シアター」の存在は、アルビ市の都市組織に文化的影響を起こしていくという。建物は同市の歴史的中心部の郊外における力強い建築的シンボルとなっている。

われわれは「アルビ・グランド・シアター」に映画館などよりプライオリティを与えている。それはグランド・シアターの周辺にパブリック・スペースや文化施設のネットワークを構成しようとするためである。

「アルビ・グランド・シアター」は当然その中心になる。“文化の路地”と呼ばれる街路に沿って、種々のパブリック・スペースが次々と生まれ、同市のカテドラルからロッシュギュード公園へ至る文化的な道筋を構成している。

この道はシビル大通りに広場を創造し、その後シアターのある場所に接続し、さらに映画館につながり、最後に公園に至る。それが種々の文化的ビルによる連続、並置、相互作用で活気づけられた都市の歩道のあり方を提示している。

われわれは明らかにそれらの異なるビルと、住所を与えられた場所を同一視している。そのため保存されたAthanorビルはシネマへのエントランスを創造するように修正された。それはこの“氷山”の見える部分となっており、広場のレベルにおけるいくつかの店舗やカフェを提供している。

地下レベルはすべて上映室となっている。ということは、シアター広場の地下はすべてシネマトグラフィック・コンプレックス(複数の映画館を集めた大劇場)になっている。このレイアウトはすべてのパブリック・スペースをオープンにし,都市の活動を人々に開放している。

まさにこのようなシアターのシンプルな幾何学が、ド・ゴール通り沿いに伸びるセッティングを可能にし、マルチ・メディア図書館への都市の連続性と近接性を企てている。さらに”文化の路地“側に2~3個の広場をつくる計画もある。

それらの二つのパブリッ空間は、ここでのアーバン・インフラにおいては新しいものだが、シアターの周辺に配置されている。ひとつは歴史的中心部に開かれており、他は近隣に開かれている。

われわれはシアターのサイズがコンパクトなヴォリュームになり、都市環境に一番フィットするよう研究した。さらにいくつかのシンプルかつ機能的で、直接的な原理を研究し、公共スペースからのアクセスで、ステージやバックステージへのつながるよう開発された。

それはシアターの裏側が無機能ということを意味しているのではない。というのは上階にはボックス席や監理室、さらに実験室があるからである。もちろんシアターの唯一のオープニングは、都市に向けての大きな窓のように全面ガラス張りで、ロビー、ギャラリー、バルコニー、大きなオーディトリアムを含んでいる。

エントランス・ホールの内部から外部を見る。地方の街らしく静かなアトモスフィアが漂っている。

エントランス・ホールの2階へ上がる階段が軽やかなデザインで、宙に浮いているかのようなスマートさを感じる。

エントランス・ホールの2階レベルから吹き抜け空間を見る。

2階レベルの吹き抜け越しに外部方向を見る。

鏡面仕上げの曲面状の壁に映る映像が目まいを起こすような幻想的なシーンを醸していて面白い。

シアター内のステージから客席方向を見る。客席の各シートが赤く目立つ存在で、シアター空間全体に華やかな雰囲気が横溢する。

照明を落とした客席側から見たシアター空間は、モノトーンでクールな表情である。

Designed by Dominique Perrault Architects
設 計 : ドミニク・ペロー・アーキテクツ

Portrait by Dominique Perrault Architects

Photo 1~5 by Georges Fessy
Photo 6~8 by Vincent Boutin
著者プロフィール
 
淵上正幸 Masayuki Fuchigami
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)、「巨匠たちの住宅 20世紀住空間の冒険」(青土社)その他がある。