2019.05.08建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第13回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#13)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

ナディア&リリ・ブランジェ音楽&ダンス・スクール(フランス、セーヌ・サン・ドニ)
The Nadia and Lili Boulanger Conservatory of Music & Dance School (Seine-Saint-Denis, France)

 北側エントランス広場からコートヤードを覗き込む。3角形の切子面パターンで構成されたコートヤード側外壁は非常にジオメトリックな様相を呈している。右手1階の入口がメイン・エントランス。

アート間のミックス、シェア、シナジーを実現した芸術空間

ジャコブ+マクファーレン・アーキテクツはパリを拠点に、主にフランスで活躍する建築事務所。彼らのジオメトリックでカラフルなデザインは、ここ10年ほど前から話題であった。リヨンに完成した「オレンジ・キューブ」は、その名の通り全身オレンジ色で、コーナーに巨大な穴が空いている。そのすぐ近くにできた「ユーロニュース・センター」は全身グリーンで、巨大な穴がふたつ空いているという過激なデザイン。コンピュータを駆使してデザインする彼らは、現代フランス建築界におけるアバンギャルドの橋頭堡だ。
 
「ナディア&リリ・ブランジェ音楽&ダンス・スクール」は、やはり彼らの前作のように外壁全体にグリーンを配した目立つデザインにより、セーヌ・サン・ドニ県のノワジー・ル・セックではかなり目にとまる存在だ。計画では5箇所に分散配置されていた建物やプログラムを、音楽&ダンス・スクールとしてひとつの屋根の下に統合。学生が増えるのに合わせた空間の拡大と、それに見合った技術的、音響的、空間的必要性を満たすことが望まれた。
 
このデザイン的解決として矩形の敷地いっぱいに建物を配置し、そのコーナーのひとつにヴォイドなエントランス広場を設け、そこから奥まった建物中央部にあるコートヤードに連続させている。というのは、この建物の公共教育的・文化的目的が、既存の周辺にある文化的プロジェクトの延長として、敷地内への公共的アクセスが自由にできる必要があったからだ。そこで U字形プランの建物が生まれた。
 
建物は幾何学的な秩序をもち、マトリクス・グリッドにより垂直的にフロアを増殖させ、水平的にコラムを増加させている。マトリクスはエントランス広場ではコンセプチュアル的に変形されダイヤゴナル状になり、切子面状の外部ファサードやスキンが生まれた。象徴的な意味では、このマトリクス&ダイヤゴナル言語は、音楽とダンスというふたつの教育内容を結合。さらにそれらに建築を加えることで、3つの相互作用が完成し、それらを探求することがジャコブ+マクファーレンの意図であった。
 
建物は3層で、部分的に技術部門が地下に配されている。オーディトリアムは敷地東側コーナーで高度制限いっぱいに建てられており、そのため敷地3方を巡る3つのストリートに沿って、シャープなエッジを見せている。音楽とダンスのプログラム的機能部分はミックスされ、3階に渡って展開するという先進のデザイン。
 
管理部門と倉庫・調達部門を1階エントランス近くに配置することで、エントランス広場を開放し、メインの入口としてもオーディトリアムの入口としても使用可能だ。道路側外壁は現場打ちのコンクリートで、コートヤードの外壁とルーフ・ファサードは、ガラスかサーモ・ラッカー塗りのグリーン・アルミニウム・パネルとなっている。
 
「ナディア&リリ・ブランジェ音楽&ダンス・スクール」は、音楽、ダンス、パフォーマンスという異なるアート間における、ミックス、シェア、シナジーをひとつの屋根の下で実践し、創造的でリラックスした雰囲気を醸す場となっている。
エントランス広場から奥のコートヤードへの繋がりを見る。手前左手がオーディトリアムの外観一部。右手の外壁は職員室や管理部門が入っている棟。
北側道路側からの全景。長いスティール製の門のすぐ内側がエントランス広場で、その奥がコートヤードになっており、普段はオープンになっている。
オーディトリアム東側立面。道路に面する外壁はRCとなっている。
オーディトリアム北側外観。ダイヤゴナル(対角線)なファサード・パターンの外壁は、熱塗装のグリーン・アルミニウム・パネル。
エントランス前のコートヤードから見た正面にオーディトリアム、その先にエントランス広場とスティールの門が見える。
コートヤード最深部のコーナーを見る。内部に階段が見える。
コートヤードに面して立ち上がる階段室。
オーディトリアムで熱演するストリング・トリオ。演奏はベートーベンの弦楽三重奏曲第4番ハ短調あたりかな!
配置図
北立面図
スケッチ
Jakob + Macfarlane Architects
Brendan MacFarlane (left),Dominique Jakob 
Portrait: © A. Tabaste NB

http://www.jakobmacfarlane.com/
 
Design: Jakob + Macfarlane Architects
設計:ジャコブ+マクファーレン・アーキテクツ


著者プロフィール

淵上正幸 Masayuki Fuchigami
 
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。