2025.02.25建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第82回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#82)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

The Never Hat (Guandong Nanhai ,China)
ザ・ネバー・ハット(朱雨蒙) (中国、広東省南海市)

川沿いの敷地を俯瞰する。樹木に囲まれ、水に浮く島のような存在である。

●中国広東省の600年の歴史をもつ古い村に生まれたコミュニティ・スペース

MADは最新のインスタレーションである「ザ・ネバー・ハット」を公開した。中国広東省の煙橋古村の南海にあるランド・アート・フェスティバル2024で発表されたプロジェクトである。そのデザインは遊び心のある文化的なイマジネーションに満ちたものであった。

このプロジェクトは子供時代に体験した自由と驚きをもち、そのコミュニティに対し、住民の集合のスペースを与え、未来をイメージさせたものであった。

600年の歴史をもつ歴史的な村の中心部に位置するこのプロジェクトは、かつてはローカルな小学校の運動場を、敷地として使用したものであった。このスペースを再考することで、MADはこのコミュニティの子供時代の記憶に敬意を表している。他方、新しい生活と目的を近隣環境へと拡散させたのであった。

この村のアイコニックな清朝時代の建築は川に沿ってうねっており、大きなガジュマルの樹木は、このインスタレーションのインスピレーションになった。「ザ・ネバー・ハット」は空飛ぶ円盤のような形をし、ローカルな漁網3本の触手で支持され、そよ風に反応し、動きと静止の相互作用を創出した。

その広いカラフルな軒の下に、「ザ・ネバー・ハット」は日陰をつくり、人々の休息や相互作用のスペースをうみだした。歴史的な背景をもち、明るく楽しげな雰囲気は、過去と現在の斬新なダイアログを生み出した。

機能的なスペースとアートとして存在する「ザ・ネバー・ハット」は、コミュニティ活動を推進する。ビジターは日々の活動を楽しみ、そよ風に吹かれ、村の遺産をエンジョイし、アートと自然の相互作用に驚いた。
「ザ・ネバー・ハット」はイマジネーションとコミュニティの賛歌であり、それは少年時代の記憶が、新しいホームを生み出したことにほかならない。「ザ・ネバー・ハット」は、煙橋古村の南海のランド・アート・フェスティバル2024として開催されたもので、村民やビジターが、アート、カルチャー、コミュニティのイマジネーションに満ちた融合を体験できたのであった。

近隣には住宅地もあり、水、樹木、村が三位一体となっている。

「ザ・ネバー・ハットの前には広場があり、子供たちが遊んだり、村民が集合したりすることができる。

近くにある遺跡の中から見ると、ユニークな形をした建物の写真を撮る人がいる。

広場では子供たちが楽しく遊び、平穏な時間が流れて行く。

円形の屋根の下は人々の休息所になっており、椅子に座って涼を取っている村民が多い。子供たちはテラスの上でも駆けずり回っている。

テラスには店舗もあって、人々が飲み物などを購入でき、この上なく便利である。

漁網を用いた屋根の上のオブジェは、風に反応して軽やかに揺れ動き、視覚的に涼しさを演出している。

Design by MAD
設 計 : マッド・アーキテクツ

Portrait by MAD Architects

Photos 1, 7, 8 by 田方方
Photos 2,3,4,5,6 by 朱雨蒙
著者プロフィール
 
淵上正幸 Masayuki Fuchigami
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)、「巨匠たちの住宅 20世紀住空間の冒険」(青土社)その他がある。