2018.07.05建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第3回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#3)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

ツアイツ・アフリカ現代美術館(南アフリカ共和国、ケープタウン)
Zeitz Museum of Contemporary Art Africa(Zeitz MOCAA) (Cape Town, Republic of South Africa)

穀物サイロから生まれたトウモロコシ空間

南アフリカの建築を紹介するチャンスは滅多にないが、ケープタウンに完成した「ツアイツ・アフリカ現代美術館」はリノベだが、そのデザイン手法は驚異的な結果を示している。建物はアフリカに存在するアフリカ美術と、世界中に離散したアフリカの美術館の収集では、世界最大の美術館である。
 
敷地はケープタウンのウォーターフロントに立つ歴史的なサイロ・コンプレックスで、1921年に建築され、同市の工業的過去をシンボライズしたモニュメントであった。高さ57mの建物は南アフリカにおける最も高い建築であったが、1990年より使用済みとなり、現在はヘザーウィックのデザインにより新しい生命を吹き込まれて復活した。
 
42個の円筒形の高いサイロがびっしりとかたまって立ち上がる形態は、ケープタウン・スカイラインにおけるイコン的存在であった。炎症面積9,500㎡のミュージアム空間のうち、ギャラリー群とアトリウムは、巧妙にえぐり取られたサイロのユニークな形状が、不思議な魅力を放つ空間となっている。

この開発では、80個のギャラリーによる6,000㎡の展示スペース、屋上彫刻ガーデン、最先端的収蔵&保存エリア、ブック・ショップ、レストラン、バー、読書室から生まれた。さらにミュージアムにはコスチューム研究所をはじめ、写真、キュレーション、映像、パフォーマンス・アート、美術教育の各センターがある充実ぶりなのだ。
 
内部で最大のスペースとなりアトリウムは、一粒のトウモロコシの形状を拡大した形を想定してえぐり取られた。高さ27mの大空間をつくるには、個々のチューブを削り取る必要があった。古くてもろい厚さ17cmのコンクリート壁を壊さないよう、チューブの壁面に沿って補強用のコンクリートを流し込みながら削るという難工事であった。
 
3,000万ポンドをかけた「ツアイツ・アフリカ現代美術館」のリノベ・プロジェクトは、V&A ウォーターフロントとヨッヘン・ツアイツ氏の協働による非営利団体として完成したものである。日々活動する歴史的な埠頭に配置されたV&A ウォーターフロントは、著名なテーブル・マウンテンを背景に、海へのワイドな景色、街の眺め、山の峰々への眺望に恵まれており。毎日多数の人々が押し寄せている。
 

 
南東側からの全景。東側に42個のサイロが立ち上がっている。
高さ28mのアトリウムを見る。詰まったサイロ群が、一粒のトウモロコシを形取って巧みに刳り貫かれた空間が、非常にユニークな造形となって魅力的だ。

地下レベルから1階エントランス方向を見る。

アトリウムを地下レベルから見上げる

アトリウム地下レベルを見る。床レベルのパターンも面白い。

展示室のひとつ。

屋上の外部スカルプチャー・ガーデン。

北西側から俯瞰した薄雲に霞むケープタウンのV&Aウォーターフロント。高さ57mの建物は南アフリカにおける最も高いイコン的建築であった。

1階平面図

2階平面図

7階平面図

西側立面図

東側立面図
トーマス・ヘザーウィック
Thomas Heatherwick
Portrait by Earl Wan

http://www.heatherwick.com/

Photos by Iwan Baan / Courtesy of Heatherwick Studio
 
Design: Thomas Heatherwick(Heatherwick Studio)
設 計: トーマス・ヘザーウィック(ヘザーウィック・スタジオ)
著者プロフィール

淵上正幸 Masayuki Fuchigami
 
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。