2018.07.31建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第4回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#4)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

ファエナ・フォーラム(アメリカ、マイアミ)
Faena Forum(Miami, USA)

コリンズ通り上部より俯瞰した「ファエナ・フォーラム」。敷地外部はピンク色になっている。手前のハリケーン・グリッドの建物が「ファエナ・フォーラム」。次が「ファエタン・バザール」。その奥が「ファエナ・パーキング」。
 
ハリケーン・グリッドに包まれたイベント御殿
 
アメリカ・マイアミのファエナ地区の文化的なコアとして、「ファエナ・フォーラム」は、この近隣エリアをはじめ、また広くのミッド・ビーチ・ゾーンの中心的存在になっている。3つのビルから構成されるコンプレックスは、「ファエナ・フォーラム」「ファエナ・バザール」「ファエナ・パーキング」である。
 
既存の敷地は3つの異なるプログラムに合った、3つの異なる条件を持っている。「フォーラム」用の大きなウエッジ形の敷地をはじめ、「バザール」用の温存されたアール・デコのホテル、そして「パーキング」用の空き地である。敷地は3方を、静かなゾーンであるインディアン・クリークの水路、大西洋に面したビーチ、活動的なコリンズ通りに面している。
 
「ファエナ・フォーラム」は、大袈裟なデザインで住宅スケールを排除するのではなく、分節されたヴォリュームをもつ変化に富んだ都市的表情を尊重し、インディアン・クリーク・ドライブやコリンズ通りに向けて、異なる外観を生み出している。組み合わされた立方体とシリンダーが、この地域をパブリック・プラザへと橋渡しし、近隣エリアの都市組織を織り成している。
 
2つのヴォリュームとひとつのフォルムから成る「フォーラム」の幾何学は、アート・スペースやパフォーマンス・スペースのみならず、インタラクションの新タイポロジーをも生み出した。「フォーラム」の決まったプログラムがなかったために、古典的なドーム・スペースとブラック・ボックス・シアターを同居させている。
 
そのふたつが組み合わされたことにより、コンサートからコンベンションまで、大規模なイベントのキャパシティをもつことができた。個々のスペースは独立して専用の音響や入口を装備し、それぞれのイベントを開催することができる。ゲストは一晩で、ドーム内のブラック・ボックスにおけるラウンドテーブル・ディスカッションのコンベンションを楽しみ、あるいはコリンズ通りの景色を背景にしたコンサートを楽しむことができるイベント御殿である。
 
コリンズ通り沿いの「フォーラム」のエントランスは、13.5mものキャンティレバーの庇である。ファサードに見える一連のアーチ群は、ハリケーン・グリッド状に配された構造的カテナリー・アーチとして機能している。それはマイアミに茂るヤシの木を想起させる、350個の異なる窓があるファサード・パターンを生み出している。
 
1940年代のアール・デコ建築「アトランティック・ビーチ・ホテル」のリノベは、スペクタッキュラーな眺望をもつペンとハウス・テラスを挿入した。またこのエリア内の建物のポテンシャルを開放させるために、オープンエア中央コートと「フォーラム」へのパッセージをもっている。
 
「ファエナ・パーキング」は、ハイテク・メカニカル・システムと、トロピカル建築に共通の角度のついたアナをうがったロウテクなブリーズ・ソレイユ・ファサードを持つカー・リフトを組み合わせている。「ファエナ・フォーラム」を含むこの地区の多種のプログラミングは、マイアミが、リゾート・タウンからラテン・アメリカ諸国へのゲイトウェイとしてシフトしていく推進力となっている。
 
「ファエナ・フォーラム」はシリンダー状とスクエアな建物が結合されてる。ハリケーン・グリッドの開口部が面白い表情だ。

「フォーラム」のコリンズ通り側のエントランスは、13.5mものキャンティレバーの庇の中にある階段で2階へアクセスする。

「フォーラム」の2階にあるアンフィシアターだが、ロビーも兼ねている。(Photo by Kris Tamburello)

「フォーラム」3階のドームからブラック・ボックス・シアター方向を見る。

「フォーラム」の内部同線に沿ったスパイラル・バルコニー。

「ファエナ・バザール」の中庭を見上げる。

コリンズ通りから見た正面の「ファエナ・パーキング」。左側の「ファエナ・バザール」。なお3棟合わせて「ファエナ・フォーラム」ともいう。

角度の付いた無数の穴を開けて太陽光を遮り、風通しを良くしている。

中央のマイアミ・ミッド・ビーチに「ファエナ・フォーラム」はある。右手が大西洋。左側の川はインディアン・クリーク。左上方の大きな海はビスケイン湾。

ファエナ地区配置図

ファエナ・フォーラム1階平面図

ファエナ・フォーラム2階平面図

ファエナ・フォーラム3階平面図

ファエナ・フォーラム長手断面図

ファエナ・フォーラム短手断面図

重松象平(OMA)
Shohei Shigematsu
Portrait by Geordie Wood
 
 
Photos by Iwan Baan & Kris Tamburello
(photo 4)/ Courtesy of OMA New York
 
Design: Shohei Shigematsu
設 計:重松象平(OMA)
著者プロフィール

淵上正幸 Masayuki Fuchigami
 
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。