2018.09.12建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第5回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#5)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

ホテル・ジャカルタ(オランダ、アムステルダム)
Hotel Jakarta(Amsterdam, Holland)

ジャワ島の先端付近に位置する「ホテル・ジャカルタ」は、先端部側が高く後部は低い。

旅行者や市民にとっての第2のリビングルーム

アムステルダムの東海岸といえば、1990年代にオランダの若手建築家チームを多数投入して大開発が行われたことは、まだ記憶に残る建築的な出来事だった。ヨー・クーネン、ハンス・コルホフ、ヴィール・アレッツ、ノイトリング・リーダイク、アルキテクシン・シー、MVRDVなど。ボルネオ島、KNSM島、ジャワ島、すぽーれんブルグ島など、アムステルダムの人工島は、オランダの若手建築家を育んだ温床であった。
 
そして今日、KNSM島の西側につながるジャワ島の先端部に完成したのが、SeARCH設計の話題作、「ホテル・ジャカルタ」である。ホテルは豪華な200室の客室やスカイ・バーを擁し、アイジェイ側を見晴らすパノラマを満喫する最新のホテル。その上サステイナブル・デザインも、BREEAM(イギリス建築研究所建築物性能評価制度)の優秀賞を受賞している環境的に高性能の建築でもある。
 
建築のユニークな特徴は、高さ30mの耐力木造構造だ。全ての梁、柱、サッシュは、認定された自然材を使用。SeARCHは00室のうち176室は、広さ30㎡で4つ星クラスの豪華木造壁と天井を組合わせている。各々のルームは標準的なトラックに乗せられ、パッシブ・ファサード、バルコニー、プラグ&プレイのバスルーム、その他の必要となる技術的設備、内部仕上げを装備されて、敷地に運ばれた。

「ホテル・ジャカルタ」の南面とファサードは、光電池を装備したBIPVパネル350枚により700㎡が覆われている。アトリウムを覆うガラス張りの屋根は、やはりBIPV電池を搭載したもので、エネルギーを集めると同時に、内部の亜熱帯ガーデンの日除けとして機能している。
 
亜熱帯ガーデンを内包するアトリウムはホテルの中心にあり、夏季・冬季における室温調整機能を発揮している。外周に沿って配置された個室群には、囲まれたバルコニーのような外部スペースが不随しており、これが日除けとして機能している。これらバルコニーのガラス・カーテンウォールは、開けた川に突出した敷地に吹きすさぶ風邪から個室群を守っている。
 
アイジェイ川の上空に突き出たホテルの鋭角3角形の先端部には、ガラスで囲まれたスカイ・バーがある。その先端部はカーブした2重ガラスで覆われており、その直径はわずか60cmしかない。その屋根部分は3重ガラスで構成されている。
 
4つ星のホテルは、種々のバーをはじめ、レストラン、コーヒー・コーナー、フィットネス・センター、文化活動スペースなど、ダイナミックなパブリック・スペースを持っている。これらは全て亜熱帯ガーデンの周囲に配されている。この亜熱帯ガーデンのデザインとメンテナンスは、アムステルダム植物園の協力を得たものである。
 
SeARCHは「ホテル・ジャカルタ」を真にパブリック・ビルとしてデザインした。それはアムステルダム市にとっての第2のリビングルームとなっている。
 
1階先端部方向にあるレストランを見る。ダブルバイトの開口部からアイジェイ川からの光で満たされる。

2階から1階のキッチン・カウンターからその先のレストラン方向を見る。

ホテルの中心に位置する植栽された亜熱帯ガーデンのアトリウムをコーナーから見晴らす。 

アトリウム・コーナーの左側通路にある格子越しにプール・サイドやアイジェイ川が見える。

植物が繁茂した亜熱帯ガーデンの上階から、建物先端部方向を見る。

 アトリウム上部付近を見る。内部仕上げには木材が使用されている。トップライトにはBIPV電池パネルが搭載されている。

アイジェイ川に突き出た薄いガラス張り先端部は、わずかに直径60cmの円弧を描き、その最上部の吹抜けはスカイ・バーになっている。

スカイ・バーの内部。ガラス張りの天井や開口部から見るアムステルダム東部海域の景色が素晴らしい。

アクソノメトリック図

1階平面図
 
4階平面図

8階平面図

アトリウム(亜熱帯ガーデン)長手断面図

SeARCH(ビヤルン・マステンブローク)
Bjarne Mastenbroek
Portrait by SeARCH
Photos by SeARCH
 
 
Design: SeARCH(Bjarne Mastenbroek)
設 計:SeARCH(ビヤルン・マステンブローク)
著者プロフィール

淵上正幸 Masayuki Fuchigami
 
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。