2018.11.06建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第7回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#7)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

ゲイトウェイ・アーチ・ミュージアム(アメリカ、セントルイス)
Gateway Arch Museum (St. Louise, USA)

有名な高さ192mの「ゲイトウェイ・アーチ」の下側に位置した「ゲイトウェイ・ミュージアム」が、上部のアーチの湾曲に呼応したカーブで地中に座している。

エーロ・サーリネンの精神を継いだ地中博物館

「ゲイトウェイ・アーチ」といえば、20世紀アメリカ建築界の巨匠エーロ・サーリネンがデザインした巨大なアーチで、セントルイスのイコン的建築として世界的に有名だ。ミシシッピ川沿いに立つステンレススティール製の高さ192mの勇姿は、アメリカ中西部への発展のシンボリックな存在である。
 
そのアーチの真下にあり、かつては「西部開発博物館」と呼ばれていた建物は、今回ニューヨークの建築設計事務所ジェイムズ・カーペンター・デザイン・アソシエイツが主導して増改築をし、新しく「ゲイトウエイ・アーチ・ミュージアム」として生まれ変わった。約10,000㎡の既存部分をリノベーションし、約4,400㎡の増築を完成した。
 
建物は新しく2つのエントランス、すなわちウェスト・エントリーと到着エントリー・ホールを設けた。今回の増改築の狙いは、まず新旧のミュージアムをよりよくインテグレートさせ、ゲイトウェイ公園→旧裁判所→セントルイス・ダウンタウンへのコネクションを改良することであった。新博物館は、草の生えた円丘の下にある広い展示スペースに沿った湾曲ガラス張りエントランスが特徴だ。
 
新しいウェスト・エントリーと増築部分は、ランドスケープの中に控えめに埋め込まれている。こうしたウェルカムなデザインは、上空のアーチを反映させた地上のガラス張りアーチからも読み取れる。他方「ゲイトウェイ・アーチ」は、青空という背景に自分自身を刻みつけている。
 
1967年にオープンした既存の博物館は、「ゲイトウェイ・アーチ」の設計者であるエーロ・サーリネンの計画の一部であった。サーリネンはこのアーチを、西部への開発を主唱したトーマス・ジェファーソンへのメモリアルとしてデザインした。それはセントルイス旧市街をランドスケープ・デザインにより保存させ、また西部開拓への移住運動を盛り込んだ博物館を目指したものであった。新しい湾曲したステンレススティール製のガラス張りエントランスは、材料と形態で「ゲイトウェイ・アーチ」に似ている。
 
既に1800年までに西部フロンティアはミズーリ州のセントルイスにまで発展しており、同市は西部方向への入り口として有名になっていた。この博物館はアメリカ史におけるこの時期の重要な情報を提供している。リノベーションにより、その展示はより充実度をましたものとなった。
 
新博物館の展示は、特に西部フロンティアの発展に寄与した女性や重要人物を取り上げている。ビジターの体験と、今日につながる歴史的テーマの現代的探求、例えば移住についてなど、「ゲイトウェイ・アーチ・ミュージアム」は、エーロ・サーリネンの精神を尊重し、その関連性をさらに強固なものにしている。

 
「ゲイトウェイ・アーチ」の頂部からセントルイスの都市軸を俯瞰する。円形のミュージアムへのアプローチの上側に「旧裁判所」、その向こうにセントルイスのダウンタウンが見える。

ミュージアム・エントランスの上部から、正面の「旧裁判所」方向を見る。

芝生の下に埋もれたミュージアムの円形エントランス・アプローチ。

円形エントランス・ホール内部。ガラス張りで明るいホールは居心地がよい。

エントランス・ホールからセントルイスの都市軸方向を見る。

ストライプ状のルーパー的天井をもつ展示スペース。

ミシシッピ川を背景にした公園の芝生を屋根としたミュージアムは整然とした美しさがある。

「ゲイトウェイ・アーチ」の立体的円形と、平面的なミュージアム・アプローチの円形が呼応する。

配置図

地下1階平面図

地下2階平面図

断面図

James Carpenter Design Associates
(ジェイムズ・カーペンター)
James Carpenter
Portrait by JCDA
 
 
Photos by Lic Lehoux
Design:James Carpenter Design Associates/ Coooper Robertson/ Trivers Associates/ MVVA
設 計: ジェイムズ・カーペンター・デザイン・アソシエイツ/クーパー・ロバートソン/トリバース・アソシエイツ/MVVA
著者プロフィール

淵上正幸 Masayuki Fuchigami
 
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。