エルサレムの北25kmにあるウエスト・バンクの都市ビルゼッド。ヘネガン&パァンの設計による「パレスチナ美術館」は、2017年9月に当地に開館した。建物はパレスチナの歴史、文化、社会における画期的な出来事を反映したデザイン。敷地は丘の上にあり、ライムストーンをまとった建物は、敷地のランドスケープから生み出されたかのように長く伸びて、かつては荒れていたが、ランドスケープ・デザインをほどこされた近隣環境の中にスマートな姿態を現わしている。
「パレスチナ美術館」へのアプローチは、段状のランドスケープの歴史に頼っている。つまり建物を敷地にそのまま埋め込み、それはかつてこの地にあった段状の農耕地の名残でもある。
美術館を上空から俯瞰すると、パレスチナ特有の荒涼とした丘の上にあるのがわかる。しかし建物周辺はランドスケープ・デザインが施され、緑が多数植え込まれている。それ以外の斜面は全くの荒地だ。この地に文化的な美術館を建設することは理解しがたいが、おそらく深い戦略的な意図があると思われる。
建物は西側に向けてアルファベットの「W」を平たく書いたような形態。南北に平たい「V」字形をふたつ連続させ(南棟と北棟)、それぞれの屋根が中折れになっている複雑なhルーフスケープだ。ヘネガン・パァン・アーキテクツは平面的にも立体的にも非常にシャープでジオメトリックな形態を生み出したが、これは一体何から発想したものか。
俯瞰写真をサイド見ると、野石を積んでできたかつての農耕地の段差ラインが、美術館の輪郭や屋根ラインにそっくりなのがわかる。ヘネガン・パァン・アーキテクツは現地の丘に展開されたランドスケープ・デザインと軌を一にし、段差ラインが折れ曲がる角度やその長さにインスパイヤーされた。
建物自身はランドスケープから出現し、強烈な幾何学的プロフィールを丘の上に見せている。ランドスケープにインテグレートしつつも、独特なアイデンティティをもつ主体的なフォルムを創造している。ほとんどは1階建てだが、建物は丘の頂上に沿って南側から北側へと、西側ガーデンを見晴らすように伸びている。
1階にはエントランス・レセプション、美術管理室、ギャラリー群、映写室があり、カフェは北棟にあり、広い西側ガーデンに向けて開放されている。他方南棟からは、下階レベルにある石積みのアンフィシアターを見下ろすことができる。
南棟下階には、ワークショップ、教室、オフィス・スペースをもつ公共の教育&研究センターがある。センターは西側のアンフィシアターに開放されている。下階には教育&研究センターに加えて、アート・コレクション・スペース、写真アーカイブ、美術品取扱い室があるが、一般には開放されていない。これらの空間は南棟の東側にある配達ヤードに面している。
「パレスチナ美術館」は、パレスチナにおいて、初めてグローバルなサステイナブル・デザイン評価制度であるLEEDの認証を受けたメルクマール的建築である。