2019.02.04建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第10回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#10)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

アクア・タワー(アメリカ,シカゴ)
Aqua Tower(Chicago, USA)

アクア・タワーを見上げる。なんともユニークな建物形態がシカゴの青空を背景に浮かび上がる。

ユニークな曲面テラスに覆われた超高層タワー

摩天楼発祥の地はシカゴと言われているが、それかあらぬか「ウィリス・タワー(旧シアーズ・タワー)」や「ジョン・ハンコック・センター」といった著名タワーをはじめ、話題の超高層が林立している。その中に、シカゴをベースに活躍する女性建築家が率いるスタジオ・ギャングが設計した、マルチ・ファンクショナルな集合住宅タワーのルーキーが登場して話題だ。
 
82階建て約263mの高さを誇る「アクア・タワー」のタワー部分には、4-18階にホテル、19-52階にレンタル・アパートメント、52-79階にコンドミニアム、80-81階にペントハウスが配されている延床面積176,510㎡の巨体。いわゆるブラウンフィールド(古い工場などの廃棄跡地)と呼ばれる約16,700㎡の敷地に立つ建物は、敷地の50%をグリーンのオープン・スペースとして開放し、シカゴの標準ゾーニング基準である25%をはるかに超えている。

「アクア・タワー」が一見して他のビルと異なるのは、そのユニークな外観にある。建物が立つエリアはミシガン湖に近いが、周辺には同規模のタワー群が櫛比しており、眺望を楽しむビュー・ラインが所々で遮られている。そのため近隣に立つビル郡の間隙を縫って眺望視線を獲得するために、テラスに工夫が施されているのだ。
 
プランを見ると分かるように、各階の床スラブがコンタ・ラインのようにうねっている。特にテラスは曲面となって最大3.6mほど突出している。それは眺望、日陰、サイズ、居室タイプによって異なっている。建物外壁を見上げると、それらが機能に根ざした非常にスカルプチュラルなヴァーティカル・ランドスケープを呈しているのだ。「アクア・タワー」は強烈なアイデンティティを生み出し、シカゴ・スカイラインのランドマーク建築として仲間入りした。
 
建物はシカゴの建築群の中で、最も広いグリーン・ルーフガーデンのひとつをもつビルとしても知られている。屋上を含むアメニティとしては、プールをはじめ、ジム、シアター、ジョギング・コース、室内プール、見晴台、庭園、囲炉裏、全ガーデン、ヨガ・テラス、バーベキュー・コーナー、脱衣室など、多くのヘルスケア&エンターテイメント施設が充実している。
 
またサステイナブル・デザインとして、自然採光、自然換気、雨水利用をはじめ、開口部まわりには6種類ものガラスが使用されている。特にバード・ストライク(鳥の衝突)予防のために、フリット・ガラスを使用するなど、細やかな配慮が行き届いた超高層タワーでもある。
 
周囲に林立する他の建物とは全く違う表情を見せている。

高さ236mのファサードはガラス張りだが、曲線を描くテラス群が面白い外観表現となっている。

外観コーナー部のクローズアップ。曲面プランのテラスは最大で幅が3.6mもある。

フラットなファサードをもつ通常の建物群の隙間から見るとそのユニークぶりがわかる。

低層部外観。基壇部分は2階建てで、その屋上である3階はアメニティ・フロアでプールをはじめヨガ、禅ガーデン、ジョギング・コースなど娯楽施設が多数ある。

基壇部分を貫くスパイラル階段。

うねる曲面テラスを見下ろす。右手上部のコーナーにミシガン湖が見える。

配置図

1階平面図

3階アメニティ階平面図

基準階平面図

ファサード・デザイン

Studio Gang
Jeanne Gang
Portrait: Studio Gang
 
 
Photos by Steve Hall © Hedrich Blessing/ Courtesy of Studio Gang
 
Design: Studio Gang
設 計:スタジオ・ギャング
 
著者プロフィール

淵上正幸 Masayuki Fuchigami
 
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。