メキシコ・ベラクルス州の港町ボカ・デル・リオ。メキシコ・シティから真東方向に300~400kmほど行った、メキシコ湾に面するボカ・デル・リオは文字通り”河口”を意味する名前で、市内を流れるハマパ川の河口に「フォロ・ボカ(河口フォーラム)」はある。
2014年、同市にボカ・デル・リオ交響楽団が結成された。その活動を通してローカルや海外のミュージシャンなど共に多種にわたる音楽表現を展開してきた。建物はボカ・デル・リオ交響楽団のホーム・グラウンドとして生まれたもので、ヴェラクルス州の文化的中心の役割を担っている。
敷地は海とハマパ川を分ける防波堤の脇にあり、海岸通りであるヴィセンテ・フォックス・アヴェニューの端部でもある。建物は市中心部のダイナミズムを海岸通りに呼び込み、このエリアの近代化を促進させる都市開発の起爆剤として機能することが求められた。「フォロ・ボカ」はこのエリアにおけるインフラストラクチャーをリノベし、そのアーバン・イメージを刷新することが期待されている。
コンサートホールがこれほど海に近い場所に存在するのは、世界的に見ても珍しい。嵐の時などはまともに波をかぶるような建物は、コンクリート・キューブという永久不滅の堅固なつくりの中にコンサートホールを擁している。コンサートホールは、音響、舞台芸術、劇場メカニクスなどにおける国際的スペシャリストや、メキシコの専門家の知識を結集したつくりで、メキシコでは最もソフィスティケートされたコンサートホールと言われている。
建物は海岸に沿って長手側面を置き、エントランスがあるキューブを川側に配した構成だ。エントランスは建物川側のコーナーにあるキャンティレバーのキューブの下にある。ところが建物の側面から見ると、その量塊性のあるキューブが宙に浮いているように見え、外観デザインの特徴になっている。
重々しい雰囲気を醸す建物は、コンクリート・キューブを多数組み合わせた方が、分節された形態が特徴だ。これらのキューブは防波堤を形成している岩石群を参照している。RCの外壁は木版を傾けて張ったパターンとなっており、その傾きは各キューブで異なっている。また内部の3層吹き抜けのロビーなども同様、木版パターンとなっている。
一番高くて長いキューブには966席のコンサートホールがある。RC打ち放しの壁面は気になるが、それ以外のステージ、客席、バルコニー席などは木製だ。その他、シネマ、ダンス、演劇用の150席の小ホールがある。また木製階段で連結された内部空間には、所々に隠されたような小スペースがあり、小さなシネマ、演劇、ダンス、パフォーマンスなどができるようになっている。
建築家ミッチェル・ロイキンドは、辺境とも言えそうな最果ての地に、大きな都市起爆剤を打ち込んだが、地元コミュニティにも与する小規模なイベントにも対応したデザインは素晴らしい。