「ヴェッセル」は今話題のマンハッタンの新開発、「ハドソン・ヤード」におけるメイン・パブリック・ガーデンのセンター・ポイントとしての役目を担っている。「ヴェッセル(器)」はパブリック・ランドマークの新しいタイプだ。16階建て高さ約45mの円形階段状フレームで、2,465段のステップと80の踊り場で構成されている不思議な形態をした建築だ。これを見てすぐ思い出されるのが、マウリッツ・エッシャーのだまし絵に出てくる階段だ。上部から見下ろすとそっくりな形だ。
「ハドソン・ヤード」は、ニューヨークの歴史に残る最も野心的な巨大都市開発のひとつ。次世代に完成が予定されている「ハドソン・ヤード」は、広さ約1,580,000㎡、約2兆数千億円のビッグ・プロジェクト。そのほとんどが、ロングアイランド鉄道の西側鉄道車庫を覆う2つの10エーカーに及ぶ巨大プラットホームの上部に建設されている。
その内容は1)5棟の超高層オフィス・ビルをはじめ2)8棟の集合住宅タワー、3)100店舗以上のショップやレストランなどを含む商業施設1棟、4)コンドミニアム&アパートメント&ホテルが入る1棟、5)ヴェッセルと呼ばれる展望デッキ。その他、文化施設、学校、パブリック・スクエア、公園など、ニューヨーク切っての巨大開発が進行している。
マンハッタンのアッパー・ウエスト・サイドに位置を占める「ハドソン・ヤード」の、超高層ビル郡に囲まれたパブリック・スクエアの中心に位置する「ヴェッセル」は、階段と通路のみで構成された展望台だが、その形態は並み外れたデザインだ。元々トーマス・へザウィックのデザインは、普通の建築家が考案するデザインとは一風変わったアイディアが特徴だ。
「ハドソン・ヤード」のセンター・ピースのデザインを任されたヘザウィック・スタジオは、多数の可能性の中からパラメータを絞り込み、記憶に残るひとつのオブジェであり、敷地全体に広がる多数のオブジェ群でないものを模索した。不活性かつ静的な彫刻などではなく、社会的な出会いの場であり、活動や参加を促し、誰もが楽しめるものであった。
人々が自然に集まる都市の場所を探すと、階段のようなインフラストラクチャーがそれに当たる。例えばローマのスペイン階段だ。この研究を進めると、インドの伝統的な階段井戸に行き着いた。だがその焦点となるのは水面で、アンフィシアターと同様常に中心に焦点がいく。だがヘザウィックは、人々の体験が外部方向と内部方向にも広がるものを求めた。
そこで生まれたのが、ヴォイド空間を階段同士の間に開放し、3次元ラティス空間を創造。パブリック・スクエアは上方に拡大し、長さ1マイル以上の階段を含む通路に囲まれた空間となった。階段、通路、踊り場により、階段井戸の連続的ジオメトリック・パターンを創造するために、控えめな構造を目指し、柱・梁を不要としている。これを解決するために、個々の2つの階段ひと組同士の間にスティールの支柱を入れて解決している。
「ヴェッセル」に使用されたジョイントから手摺まで、個々のエレメントはすべて特注であり、75個の巨大なスティール・コンポーネントはイタリアのヴェニスで製造され、3年がかりで6回に渡って輸送され現場で組み立てられた。一言でいうと「階段式展望台」ともいえる構造体は、屋根なし壁なしで、通路や階段からハドソン川に向けての素晴らしいパノラミック・ビューをはじめ、周囲全域、上下への眺めもエンジョイできる。