2019.07.08建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第15回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#15)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

龍崗区文化センター(中国、深圳市)
Longgang Cultural Centre(Shenzhen, China)

北東側から俯瞰した全景。建物は4棟に分割されている。背後に深圳市のダウンタウンにある高層ビル群が見える。手前は公園。

横臥した超高層ユニーク文化施設

数ある中国地方都市の中でも、近年特に発展が著しい年のひとつが深圳市だ。日本の槙文彦を筆頭に日本勢も進出しているが、海外勢もOMAのほか多くの世界の建築家が設計している。そんな建築ラッシュの中、新たに参入したのが、ザハ・ハディド亡き後、世界でも数少ない女性建築家フランシーヌ・ホウベンが率いる建築家集団メカノーだ。
 
深圳市が1980年に経済特区と指定されて以来、高層ビル群が年のスカイラインを変え、人口も1,200万人を超えた。同士の東側に位置する龍崗区(りゅうこうく)に、新しく文化センターが生まれたのも理解できる。「龍崗区文化センター」は、多様性に満ちたリッチなプログラムをアイコニックなアーバン・コネクター(都市連携装置)に包含している。
 
3.8ヘクタールの敷地は細長く、厳しい高度制限がある。そこで建物をプログラムごとに複数の別個のヴォリュームに分割して、周辺エリアに連結させている。これらの各棟を横切る建物間の通路は近隣道路に並行し、建物西側にあるビジネス地区から、東側にある公園のアクセスを可能にしている。
 
建物自体は4つの分節されているが、いずれも建物のエッジ部分はRがつき、ファサードには傾斜がついたデザインでソフトな印象だ。各棟からはダイナミックな景観をフレーミングし、パブリック広場をシェルター化し、歩行者を自然の流れへと導いている。建物の流動的な形態は空気の流れを起こし、深圳市の亜熱帯気候における太陽や風雨から守っている。同じような形態言語、高さ、材料を用いることで、各棟はヴィジュアルにまとまりのある全体を形成している。
 
「龍崗区文化センター」には4つのメインとなるプログラム・エレメントがある。美術館、青少年センター、科学センター、ブック・モールだ。科学センターは子供や青少年のための通俗科学に焦点を当てたもので、青少年センターは音楽やスポーツのような課外活動や州かいの場所を提供している。美術館はパブリック・アートを上階に、都市計画センターを1階と地階に持っている。
 
各棟のエントランスをシェルター化されたパブリック広場に配したために、多くの文化プログラムが戸外へ拡張できる利点がある。4棟のうち一番大きな棟はブック・モールである。これは本だけに特化したモールで、本に関するイベントのスペースで、サイン会、出版、展覧会などが開催される。
 
現場打ちコンクリートの建物の内部は、柱、梁、巨大なコンクリート・コアなどがむき出しの造形性を見せてコンクリート彫刻のようだ。各棟端部にあるフルハイトの傾斜したインテリア・スペースのヴォリュームはまさに建築的ハイライト。ビジターはそのスケール感に圧倒される。
 
遠くから一見すると長大なひとつの建物に見えるが、実は非常に近接した4棟で構成されているのが建物の最大特徴だ。全体で延床面積95,000㎡の建物は、ブック・モールの35,000㎡が最大だ。美術館13,500㎡、科学センター10,000㎡、青少年センター8,000㎡、店舗7,000㎡、地下駐車場21,500㎡など。
 
赤いアルミ・プレートをまとった文化施設「龍崗区文化センター」は全体の長さが400mもあり、幅50m、高さは25mと巨大な体躯で、いわば横になった超高層ビルと掲揚できる斬新なアイディア建築だ。

 
ブック・モール棟のパブリック広場(エントランス・プラザ)を見る。赤いアルミニウム・プレートが大胆な造形をさらに強調する。

同じくブック・モール棟のパブリック広場を通して街方向を見る。建物には表・裏がない。

2棟間はわずかな隙間によって分棟されている。この微妙な離れ具合が建物の圧巻の特徴だ。

建物間の通路(パブリック広場)が両棟のエントランス・プラザになっている。

美術館内のメディア・ギャラリー。

科学センターのフルハイトのアトリウム空間は階段やブリッジが交差してぷピラネージの「牢獄」的空間だ。

青少年センター内の端部にあるフルハイトの吹抜け空間。 

南西側から見た全景。手前に古いアパートのような建物が残っている。

1~5階平面図

長辺方向立面図

断面図

美術館棟立面図 & 内壁立面図

Mecanoo
Francine Houben
Portrait: ©Marco van Rijt
 
 
Photos: ©Zhang Chao / Courtesy of Mecanoo
Drawings & Material: Courtesy of Mecanoo
 
Design: Francine Houben / Mecanoo
設 計:フランシーヌ・ホウベン / メカノー
 
著者プロフィール

淵上正幸 Masayuki Fuchigami
 
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。