2019.08.01建築

21世紀世界の先端建築を渉猟する 第16回
Ranging Over the 21st Century World Architecture (#16)

淵上正幸(建築ジャーナリスト) / Masayuki Fuchigami(Architectural Journalist)

マジュンガ・タワー(フランス、パリ)
Majunga Tower(Paris, France)

曲折して立ち上がる「マジュンガ・タワー」全景。晴天を反映してブルーで覆われている。

女性の緩やかなロング・ドレスに似た曲線美のタワー

かつて世界中を騒がせたパリの「グラン・プロジェ」。巨大な10件のプロジェクトがパリ改造のためにスタートした。フランスを代表する建築家や海外の著名建築家が、今日のパリを綾ドル素晴らしい建築をコンペや特命で生み出した。パリのデファンス地区にできた唯一の「グラン・プロジェ」が、デンマークの建築家ヨハン・オットー・フォン・スプレッケルセンがコンペで勝った「グラン・ダルシュ」だ。升の底を取り去ったような正方形の穴が開いた高さ100mの建物で、ご存知の方も多いと思われる。
 
その「グラン・ダルシュ」の手前でシャンゼリゼ側から見て左側に建っているのが、「マジュンガ・タワー」だ。デファンスの歴史的軸線沿いに位置し、緩やかにしなる建物形態は優美なフォルムで、建築では滅多にお目にかかれない形だ。建物名のマジュンガはフランスの植民地だったマダガスカル島の海浜都市から取られたネーミングだ。
 
高さ195m、47階建てタワーのシルエットは、パリ中心部からも容易に見ることができる。ジャン・ポール・ヴィギュールがデザインしたシンボリックなタワーは、アフリカのモザンビークに面するマダガスカル島のマジュンガ地区にブッシュ・スクールを建設する援助をしている。
 
「マジュンガ・タワー」は機密性の高いオフィス・タワーのコンセプトをやめて、都市とのコネクションを数多く確率している。デファンス・ペデストリアン・ゾーンの建設により、「マジュンガ・タワー」はデファンス・エスプラナードに面する1階レベルに広いホールをもち、もうひとつのホールは直接ストリートと新しいガーデンに面している。
 
延床面積69,500㎡の巨大な熱帯樹木のように緩やかな曲線を描く「マジュンガ・タワー」は、その有機的な形態で、反復する退屈なビルが連続するビジネス街の環境にジオメトリックなバラエティを与えている。また各階正面ファサード中央部にロッジア(回廊)があり、これがデザインのポイントとなっているが、1階に降りてエスプラナードに行くことなく、ロッジアに出て深呼吸も可能となっている。これはオフィス・タワーのヒューマニゼイションを目指した結果である。
 
また「マジュンガ・タワー」には特殊な換気システムが採用されている。”ブリージング・ダイアフラム(呼吸する膜)”と呼ばれるパンチング・メタルを使用した開閉式の開口部により、ファサード・デザインや、気候・太陽光・気温への適応性を見事に解決している。これにより、外気を程よく取り入れ、最小エネルギー消費を保証。2013年のヨーロッパ・ブリューム賞(サステイナブル賞)に輝いている。
 
自然光が広いオフィス・スペースに拡散され、各階のエレベーター・ランディングのあるロッジアが各階のファサードで目立っている。これがかつての典型的なオフィス・タワーの単純さを打ち破っている。タワーの足元にある植栽されたガーデンのようなテラスは、外部空間で人に会い、勤務し、ランチをエンジョイできる素晴らしい場所である。

 
雑多な都市環境の中でひときわユニークな形態を見せる「マジュンガ・タワー」。ファサード中心にある凹んだ部分がロッジアとなっている。

側面ファサードは長く緩やかにうねっている。

正面ファサードのデザイン的ポイントになっているロッジアを見る。きれいな窓割りデザインの2層分を占めるロッジアが殊の外かっこいい。

正面ファサードの内側を巡る通路。正面ガラス張り部分の外がロッジア。ロッジアには緑が植え込まれているのが分かる。

窓枠に仕込まれた”ブリージング・ダイアフラム(呼吸する膜)”。太めの窓枠の一部が内側に倒れて、パンチング・メタル越しに外気がほどよく入ってくる。

吹き抜けた高い天井のエントランス・ホール。

建物の足元にある巧みに木をあしらった木製の外部テラス。ここで面会、仕事、食事もできる。

夕景の中の「マジュンガ・タワー」。夕日を浴びて赤く表情を変える色っぽさを発散している。

夜景の「マジュンガ・タワー」はまたまた表情を変える。内部照明の黄色っぽい色と、外壁の鮮烈なブルーが、美しくも強烈なコントラストで素晴らしい。

位置図 

1階平面図 

低層基準階平面図

高層基準階平面図

断面図

スケッチ

Jean-Paul Viguier et Associes
Jean-Paul Viguier
Portrait: ©Bertrand Jamot
 
 
Photos 1~3, 5~8, 10: ©Takuji Shimmura,
Photos 4 & 9: ©Sergio Grazia
Drawings & MAterial: Courtesy of Jean-Paul Viguier et Associes
 
Design: Jean-Paul Viguier et Associes
設 計:ジャン・ポール・ヴィギュール・アーキテクツ
著者プロフィール

淵上正幸 Masayuki Fuchigami
 
建築ジャーナリスト。東京外国語大学フランス語学科卒。2018年日本建築学会文化賞受賞。建築・デザイン関連のコーディネーター、書籍や雑誌の企画・編集・執筆、建築家インタビュー、建築講演や海外建築視察ツアーの企画・講師などを手掛ける。主著に『ヨーロッパ建築案内』1~3巻(TOTO出版)、『アメリカ建築案内』1~2巻(TOTO出版)、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』(ADP出版)その他がある。